AKPC27 毛抜(けぬき)

もうひとつ


AKPC27

描かれている人物

赤枠上段左:八剣数馬
赤枠上段右:(左から)錦の前、腰元
赤枠中段:百姓万兵衛実は石原瀬平
赤丸中段:八剣玄蕃
赤枠下段:(左から)粂寺弾正、忍びの者

絵の解説

紙の都合で大部屋状態になりました。
左上から時計回りに
小野家の壁に描かれている花丸(桜、菊)
額の青筋が怪しい八剣玄蕃、
その息子の八剣数馬。性格に難あり。
髪の毛が逆立つ奇病にかかった錦の前と、
思わず手を合わせる腰元がかわいいです。
猫なので尻尾とヒゲが逆立つ奇病。

原画

百姓万兵衛実は石原瀬平
鍬(くわ)に下げているのは風呂敷包みの弁当とマイ急須。
百姓に化けるために小道具にも気を遣います。

原画

忍びの者を取り押さえる粂寺弾正。
奇病の原因は大きな磁石だった…!なんたるトリック!
上は小野家の壁に描かれている花丸(梅、牡丹)
左端のマス目は碁盤の目

碁盤が描かれた弾正の衣装。
碁盤のマス目の本数が気になって調べたら縦横19本。
描いてみたものの流石に線が多すぎる。
実際の衣装もデフォルメして本数は10本に減らされたデザインです。

あらすじ

本外題「雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまさくら)」三幕目 歌舞伎十八番

主な登場人物と簡単な説明

・粂寺弾正(くめでらだんじょう)
文屋家の家老

・錦の前(にしきのまえ)
小野小町の子孫である小野春道の息女。
文屋豊秀(ぶんやのとよひで)の許嫁。

・八剣玄蕃(やつるぎげんば)
小野家の家老。お家乗っ取りを企む悪人。

・八剣数馬(やつるぎかずま)
八剣玄蕃の息子。父とともにお家乗っ取りを企む。
赤っつらで血気盛ん。

・百姓万兵衛実は石原瀬平(ひゃくしょうまんべえ / いしはらせへい)
早雲王子の家来。
小磯の兄と偽って、小野家失脚を企む。

他に小野春風(おのはるかぜ)、秦民部(はたみんぶ)、秦秀太郎(はたひでたろう)、巻絹(まきぎぬ)などがいます。

あらすじ

小野家では重宝である小野小町の
”ことわりやの短冊”が何者かに盗まれる。
錦の前は髪の毛が逆立つ奇病にかかり、
許嫁の文屋豊秀との祝言が遅れていた。

ある日、文屋家からの使者として粂寺弾正が訪れる

主人である春道を待つ間、
傍に置いた鉄製の毛抜が立ち上がるのを見た弾正は、
姫の病気の原因を悟る。

そこへ小原万兵衛という百姓が来て、
小野家に腰元奉公していた妹の小磯が殺されたと訴える。
小磯は小野春風の子供をみごもって里に帰されたが出産前に死亡。
小磯を返すか春風の切腹を求める万兵衛を弾正は斬ってしまう。

実は、文屋家の管轄内に住む万兵衛という男が
妹の小磯が何者かに殺されたと訴えてきており、
本物の万兵衛は文屋家の保護下にあると
弾正は事前に聞き及んでいた。

弾正がニセ万兵衛の懐を探ると
”ことわりやの短冊”が出てきた。

弾正が槍で天井を付くと、
大きな磁石を抱えた忍びの者が落ちてくる。
姫の銀製の髪飾りを磁石で吸い寄せ、髪を逆立てていた。
犯人はお家乗っ取りを企む八剣玄蕃。
弾正は玄蕃を斬ります。

姫の奇病も治り、重宝の短冊も戻り、一件落着。
弾正は悠々と引き上げる。

私のツボ

おおどか=ユーモア

歌舞伎演目の解説書などを読んでいると、
よく”おおどかな”という形容詞が出てきます。

おおらか、鷹揚(おうよう)なさま、という意味ですが、
歌舞伎をたくさん観るようになってから、
これ以上に歌舞伎を言い表すにふさわしい形容詞は無いのでは、と
たまに思います。

私なりの定義ですが、”おおどか”には
”よく分からないけど、まぁ良いか”が含まれています。
物語の辻褄が合わなくても、まぁまぁ細かいことは気にならさずに、
というおおらかさ。

この「毛抜」は特に”おおどか”という形容がピッタリで、
大きすぎる毛抜、髪の毛が逆立つ奇病、いかにも怪しい百姓、
天井から大きな磁石を持った曲者が落ちてくるに至っては、
まるでドリフのようです。
そして大団円。

冗談なのか、
古典と現代という感覚のズレなのか、
反応に戸惑ってしまうのですが、
”おおどか”という形容詞でだいたい解決してしまいます。
歌舞伎という古典芸能は、とかく難解なものと捉えられがちですが、
ユーモアに溢れた呑気なものも多いです。

この荒唐無稽で呑気な物語を、
豪華な舞台美術と衣装で大真面目に演じること。
なんと贅沢な笑いなのでしょう。

登場人物も、皆一様にクセが強く、愉快で賑やかな演目です。

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