KNPC61 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

上段左端:息子の市松、お梶
上段中央:一寸徳兵衛、団七九郎兵衛
上段右端:お辰
中段左端:釣船三婦
中段中央、右端:団七
下段:団七

絵の解説

何をしているところか説明します。

上段左端:
お梶と息子の市松が住吉神社に団七を迎えにくるところ

上段中央:
住吉神社での徳兵衛と団七の立ち廻り

上段右端:
左頬に焼けた鉄弓を当てて火傷を作るお辰

中段左端:
気合を入れて着替えた三婦。
団七の俳優に配慮して彫り物をせず、龍の模様の着物を着る。
喧嘩をしないように、右手の数珠は手放さない。

中段中央:
義平次を追う団七の見得

中段右端:
義平次を殺害する団七の見得
十三の見得があり、まさに見どころ。

下段:
祭りの人々に紛れて逃げる団七
「ようやさ、ちょうさ」

長屋裏の柵に絡まるカボチャの花と実で囲いました。

原画

あらすじ

「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)」全九段

主な登場人物と簡単な説明

・団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)
元堺の魚売り。
元は孤児で、三河屋義平次に拾われて魚屋となり、義平次の娘お梶と結婚した。

・一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)
侠客。備中(現在の岡山県)玉島の出身。

・お梶(おかじ)
団七の女房で、三河屋義平次の娘。

・お辰(おたつ)
徳兵衛の女房。

・釣船三婦(つりぶねのさぶ)
団七が普段から世話になっている老俠客

・三河屋義平次(みかわやぎへいじ)
お梶の父。金に目がない強欲な悪党で、清七と名前を変えて手代奉公する磯之丞を騙して五十両を搾取。

あらすじ

三段目「住吉鳥居前」
大阪・住吉神社の鳥居前。
喧嘩で入牢していた魚売り団七が出牢する日。
女房・お梶、息子の市松、釣船三婦が団七を迎えに来る。
三婦が団七の旧主・玉島磯之丞を救い、団七は磯之丞の恋人傾城琴浦を佐賀右衛門から救う。

佐賀右衛門は意趣返しに、手下の一寸徳兵衛を差し向ける。
団七と徳兵衛が争うところにお梶が仲裁に入り、二人は義兄弟の契りを交わす。

六段目「釣船三婦内」
三婦は、団七の舅・義平次の奸計に巻き込まれ殺人を犯した清七(磯之丞)と琴浦を匿っている。
高津の宮の宵宮の日、三婦の家に徳兵衛の女房のお辰が訪ねてくる。
お辰の侠気に感服した三婦は、清七を預けて備中へ逃す決心をする。
三婦が出かけた隙に義平次がやって来て琴浦を誘拐。
団七は大急ぎで義平次の後を追う。

七段目「長町裏」
長町裏で義平次に追いついた団七は、義平次を説得するが、金に目がくらんだ義平次は耳を貸さないどころか悪態をつく。
じっと耐える団七だったが、ふとしたはずみで義平次を殺してしまう。
そして通りかかった宵宮の御輿の人混みに紛れて逃げてゆく。

私のツボ

あぶら汗のコテコテ協奏曲

登場人物全員、個性が強いです。
その個性がぶつかりあい、絡まり合い、
義理人情というベースの出汁を入れ、
スパイスで細かい笑いをまぶし、
煮詰めて煮詰めて、
コテコテがどんどん熟成され、酩酊状態で幕。

七段目の「長町裏」が「泥場」と呼ばれるように、まさにウスターソースの沈殿物を利用して作られた”どろソース”のような演目です。

このコテコテした味わいを構成する人たちを描きました。
要するに欲張り構図ですが、それぞれ見せ場も多いので、時系列で並べました。

この中で一番描きたかったのは、下段、神輿に紛れて逃走する団七。
茫然と、祭りの喧騒に飲まれていく姿が、もの悲しい。
そこで何を思うか、おそらく大切な妻子を真っ先に思い浮かべるであろうと、左端上にお梶・市松を配置しました。

肝心の義平次は、アクが強過ぎて絵にすると滑稽になってしまうため描いていません。
これは舞台で動くからこそ、その強欲な醜悪さも観られるのだろうと思います。

蔓を伸ばし、黄色い花を咲かせて立派な実をつける長町裏の南瓜でコテコテ協奏曲を囲みました。

おつぎ

魚を焼く姿を描こうか迷いましたが、花道を引っ込む前の団七の見得の方が妥当であろうと団七にしました。
描くスペースが作れなかったので、おつぎは次の機会に。

登場は少ないですが、老侠客・三婦の女房だけあって、キリッと辛口な老婆です。
二代目中村吉之丞さんのおつぎが、鉄火な色気の中に可愛げがあってとても印象に残っています。
細かい所作に、可愛らしさがあり、これは三婦も惚れる訳だ、などと思わせるおつぎでした。
歌舞伎に限った話ではありませんが、脇がキリッと締まった舞台は、本当に見応えがあって、至福の時です。

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