KNPC201 桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤枠左上:(左から)長浦(ながうら)、残月(ざんげつ)
赤枠右上:(左から)桜姫(さくらひめ)、釣鐘権助(つりがねごんすけ)
赤枠二段目左:清玄(せいげん)
赤枠下:(左から)釣鐘権助(つりがねごんすけ)、桜姫(さくらひめ)

絵の解説

※小見出しの「」内は場名です。

長浦と残月「岩淵庵室(いわぶちあんしつ)」

長浦、残月(原画)

清玄が片時も離さない小さな帛紗を金子と勘違いした長浦と残月。
強奪するも、帛紗の中身は白菊丸のかたみの香箱の蓋。
二人して呆れているところ。

桜姫と権助「岩淵庵室(いわぶちあんしつ)」

桜姫、権助(原画)

奇しくも権助と再会を果たした桜姫。
岩淵庵室を立ち去るところ。

病み果てた清玄「岩淵庵室(いわぶちあんしつ)」

清玄(原画)

長浦と残月の元に身を寄せる清玄。
床に臥せった清玄が桜姫の小袖をかき抱いているところ。

夫婦になった桜姫と権助「浅草山の宿(あさくさやまのしゅく)」

権助、桜姫(原画)

女郎屋から権助の元に帰された桜姫と
長屋の家主におさまった権助が布団で喋っているところ。

あらすじ

「岩淵庵室(いわぶちあんしつ)」

長浦と残月の詫び住まいに身を寄せる病身の清玄。
二人は金を奪おうと、清玄に青蜥蜴の毒を飲ませようとします。
誤って清玄の顔に毒がかかり青あざが出現します。
結局、清玄は残月に扼殺されます。

権助と桜姫が岩淵庵室で偶然再会し、
長浦と残月は追い出されてしまいます。

桜姫を女郎屋へを売る段取りをつけるため権助が出かけます。
桜姫が一人待っていると、落雷で清玄が蘇り、桜姫をくどこうとします。
しかし清玄は誤って墓穴に落ち包丁が喉に刺さって息絶えます。

戻った権助の顔に清玄と同じような青あざが出現しています。
庵室を立ち去る二人の後を清玄の火の玉が追っていくのでした。

「浅草山の宿(あさくさやまのしゅく)」

権助は浅草で長屋の家主になっています。
腕に釣鐘の刺青を入れていることから
”風鈴お姫”という源氏名の女郎になっていますが、
夜毎に清玄の幽霊が出て客が怖がるため女郎屋から帰されます。

権助が所用で出かけると、清玄の幽霊が現れ、
権助こそが、家宝を盗み父と弟を殺して吉田家を陥れた信夫の惚太である
と桜姫に告げます。

酒に酔って帰宅した権助から証拠と言質を掴んだ桜姫は、
権助と、権助との間に生まれた我が子を殺し、家宝を取り戻します。

大詰「三社祭礼の場」

三社祭で賑わう浅草。
家宝を取り戻し、桜姫と家臣一同が揃ってお家再興を喜ぶのでした。

私のツボ

長浦と残月

漫画の『ナニワ金融道』に出てきそうな、
セコい小悪党でとても面白い熟年カップルです。
この二人でスピンオフの小咄が欲しいです。

長浦は局だったので、くたびれていても品があります。
桜姫の小袖を売らずに大切に持っているあたり、
まだどこかに局としてのプライドがあるのでしょう。

脂っぽい残月は、このだらしない風体がたまらないです。
どのような動機で仏門に入ったのだろうか、
今までよく破門にならなかったな、
などと彼の人生に思いを馳せてしまいます。

二人とも短絡的でお金大好き。
縁の切れ目になるような金もなく、腐れ縁で一緒にいるのでしょうけれど、
しぶとく二人で生きながらえて行きそうです。

いつものことですが、ついつい脇役に目がいってしまいます。
歌舞伎の脇役は非常によく出来ているので捨ておけません。

主役が華やかで存在感があるのは当然のことですが、
やはり脇役が締まっていると、舞台の厚みが断然違います。

五代目坂東竹三郎の長浦は絶妙な匙加減で良かったです。
竹三郎さんは老け役が非常にお上手です。
意地悪な婆役もこれまた素晴らしく、
時折はなたれるシラーッとした冷たい眼差しがたまりません。
二代目中村吉之丞の長浦も観てみたかったのですが、
もはや叶わぬことですので写真で舞台を想像するのみです。

二代目中村吉之丞と五代目坂東竹三郎。
東西脇役の双璧をなすお二人でした。

南北のサービス精神

より恐ろしく、より生々しく。
よりショッキングな展開を求めての演出なのですが、
南北先生はやりすぎてやや滑稽になってしまうきらいがあります。

そしてこの疾走感。
観客を置きざりにするのも厭わず爆走します。

ゾンビ映画の始祖、ジョージ・A・ロメロ監督、
不世出の映画職人、深作欣二監督、
敬愛してやまない巨匠の二人と通ずるものがある
と、個人的には思っています。

これは改めて記事にまとめたいと思います。

幕切の爽快感

それまでの悲惨な場面の連続から急展開し、
舞台も急に明るくなって、
パタパタっと丸く収まります。

余韻もなくぶった斬る、
このあっけらかんとした終わり方が面白く、クセになります。

大団円で終わるのは、当時の歌舞伎のお約束です。

歌舞伎を見始めた頃は、
都合が良すぎると違和感がありましたが、
いつしか
強引でもハッピーエンドでなければ辛くてやりきれない
と思うようになってしまいました。

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あらすじはかなり省略してあります。
特筆すべき約束事もいくつかあり、鶴屋南北の項で改めてまとめたいと思います。

KNPC200 桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)
ハイスピードで炸裂する鶴屋南北ワールド。

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