Vol.08 近藤れん子先生のこと #02

ドレスメーキング

「あなた、何がしたいの」

見学の日。
京王線桜上水駅からしばらく歩き、
閑静な住宅街の中に東京立体裁断研究所がありました。

れん子先生は圧倒的な存在感で、
今までお会いしたことのないタイプの女性でした。

エレガンスで、おしゃれで、大人の女性。
それなりに見た目はお年を召されていましたが(当時は年齢非公表)
マダムという言葉が相応しい佇まいでした。
爪にはいつもピンクのマニキュアが綺麗に施されていたのをよく覚えています。

よく通る声でお話しされ、
質問にも的確に答えてくださっていましたが、
当時、先生の体調などを鑑み、
生徒の数は制限されていたと後で知りました。

「あなた、何がしたいの」
という先生の問いに、積もり積もった服作りの疑問、
特に袖山を計算式で出すのが納得いかない話をとうとうと語りました。

婦人服の一般的な袖の製図方法では、
前身頃と後ろ身頃のアームホールの高さの平均値から
袖山の高さを計算式から算出します。
この計算式の根拠が何を調べても分かりません。

ラフでルーズなシルエットの場合は袖山は10cm程度、
タイトなシルエットになると袖山は高くなり、
14〜18cmくらいになります。
なんとなく服のデザインによって袖山の高さは決まっているので
おそらく統計から編み出されたものではないかと推測しています。
そのまま数値を覚えてしまえば良いのですが、
丸覚えは納得がいかない。

丸覚えだと、製図と実物の因果関係が分かりにくく、
着心地やシルエットでトラブルがあった場合に
どこをどう直せば良いのか分からない。

でも他に袖の作り方が分からず、
袖は私にとって鬼門のような存在でした。

袖山についてひとしきり語り終わると、
先生から入学の許可が出て、
先生はその日のレッスン指導に戻られました。

入学申込書や今後の段取りなどを聞き、必要なものを購入。
見学して行きますか、と聞かれましたが興奮さめやらず、
一人で落ち着きたかったので家路につきました。

思い起こすと、あれはきっと見学という名の面接だったのでしょう。
ある程度の洋裁の知識があること、
服作りの経験があることは大前提で、
プロかアマチュアかよりも
目的を明確に持っているかどうか、
先生自身が見極めていたのかなと思います。

それもあってか研究所に来ている生徒さんたちは個性的な人が多かったです。

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