KNPC191 極付幡随院長兵衛(きわめつけばんずいちょうべえ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

上段左:唐犬権兵衛(とうけんごんべえ)
上段右:出尻清兵衛(でっちりせいべえ)、長松、お時
下段:幡随院長兵衛

絵の解説

長兵衛(原画)

花川戸の自宅にて長兵衛。

唐犬権兵衛 / 長松、出尻清兵衛、お時、原画

左:右腕のような存在の弟分の唐犬権兵衛。

右:花川戸長兵衛内の場、三社祭を見物してきたのか、女房・お時は長松をおぶった出尻清兵衛と三人、楽しそうな様子で帰ってくる。

あらすじ

河竹黙阿弥 作

主な登場人物と簡単な説明

・幡随院長兵衛(ばんずいちょうべえ)
江戸中に名を知られた町奴の親分。
武士の出身だが、今は浅草花川戸で口入屋(くちいれや、人足などの働き手を斡旋する業務)を営んでいる。

・唐犬権兵衛(とうけんごんべえ)
長兵衛の弟分で、町奴の副将格

・出尻清兵衛(でっちりせいべえ)
町奴の若い衆。

あらすじ

序幕 村山座舞台の場
江戸の芝居小屋・村山座は大入で「公平法問諍」を上演中。
そこへ水野十郎左衛門の中間(ちゅうげん)が酔って乱入、芝居が中断する。
侍が相手では下手に手出しもできず、皆が困り果てているところへ、町奴の親分・幡随院長兵衛が出てきて事態を収拾する。
この様子を桟敷から見ていた水野十郎左衛門と渡辺綱九郎は、長兵衛を見咎める。
長兵衛の子分たちが駆けつけ、一触即発となるが長兵衛が制止する。

二幕目 花川戸長兵衛内の場
三社祭で華やぐ長兵衛の家。
和解の酒宴を開くので長兵衛に来てほしいと、水野の屋敷から使いが来て、長兵衛は快諾する。
先日の仕返しに自分を殺すための罠だと子分たちが長兵衛に訴えるが、ここで逃げたら男がすたると聞き入れない。
身支度を整えた長兵衛は、息子の長松には堅気の暮らしをさせるよう女房・お時に言い置いて、ひとり水野の屋敷へ向かう。

三幕目 水野邸座敷の場 / 同 湯殿の場
水野は長兵衛の来訪を歓迎し、和やかに酒宴が始まる。
長兵衛が元は武士だという噂話が出て、請われて剣術を披露する。
こぼれた酒が長兵衛の着物を濡らしてしまい、水野に風呂をすすめられる。

湯殿に案内された長兵衛の前に水野が現れ、槍を突き出す。
長兵衛は丸腰で応戦するが、重傷を負う。
「さぁ、どこからでもつかっせぇ」
敵ながら天晴れ、殺すのは惜しいと思いながら、水野はとどめを刺す。

私のツボ

長兵衛が背負うもの

「極付幡随院長兵衛」は人気があるのかよく上演されることもあって、複数枚カードがあります。
それぞれ、構図の主題に据えているものが異なります。

KNPC126では長兵衛と水野の対立。長兵衛とお時。と交錯する大人の思い。
KNPC154では村山座の一件。くすぶっていた旗本奴と町奴の対立が噴出するきっかけとなった事件。
このKNPC191では、長兵衛が背負うものに焦点を当てました。

唐犬権兵衛はどっしり構え、長兵衛の右腕的存在です。
仕事のできる頼れる部長と言ったところでしょうか。
清兵衛は血気盛んな若者。
他にも清兵衛のような若い衆が何人かいます。
妻、息子はもちろんですが、長兵衛を慕う弟分も、また彼にとっての家族です。
家族を守る、男の中の男・長兵衛。

彼らが幡随院長兵衛についてきてよかった、と思うことができるような男であらねばならない、と、長兵衛の両肩にのしかかる責任は大きいです。
そのどっしりした長兵衛の貫目は当然ながら随所で感じられますが、長兵衛が背負うもの、というテーマにしたので、プライベートでの長兵衛を描きました。
お馴染みの、キセルを手にした姿です。
長兵衛が背負おうもの、としましたが、長兵衛が守るものー長兵衛ファミリーとも言い換えられるかもしれません。

死んでしまったら元も子もなかろうよ、と言いたいところですが、長兵衛の貫目の良さと後味の悪さを楽しむ演目だと思っています。
何度見ても後味が悪くてスッキリしないのですが、つい長兵衛見たさに観てしまうのでした。

襟元

長兵衛も権兵衛も、襟元はきっちり締めるのがポイントです。
監修でチェックがよく入る箇所なので、襟元は気をつけています。

基本的に、筋が通った真人間は襟元は緩めません。
例えば「源氏店」。
木更津海岸での与三郎は襟元はぴっちり締めていますが、後半では緩く胸元の傷が見え隠れします。
その間、彼に何があったかは言うまでもありません。
女形も、あだっぽい役は首を抜きますが、堅実な役どころは首元はぴっちり締めます。

”だらしない”と”色っぽい”は似て非なるもの、というのは歌舞伎の襟元で学びました。
色気は肌の露出や化粧で見せるのではなく、所作や仕草で感じさせるものなのです。

衣装の柄や材質だけではなく、ちょっとした着こなしで、その役柄が表されるのは面白いなと思います。

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