KNPC55 春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)

かぶきねこづくし

描かれている人物

上:(左から)胡蝶の精、獅子の精、胡蝶の精
下:弥生

絵の解説

上:眠りについた獅子の精を起こす胡蝶の精
下:二枚の舞扇を使って踊る弥生。

原画

能にならって、弥生の可憐な踊りは”前シテ”、獅子の勇壮な舞は”後シテ”と呼ばれます。
獅子の精と弥生、胡蝶の精二人と蝶二匹。
それぞれを呼応させる構図にしました。

衣装拡大(原画)

弥生の衣装は俳優さんによって異なります。

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・弥生(やよい)
江戸城の大奥に仕える女小姓。

・獅子の精(ししのせい)
獅子頭に宿る獅子の精。

・胡蝶の精(こちょうのせい)
牡丹の花に舞い遊ぶ蝶の精。

他、老女飛鳥井、局吉野などがいます。

あらすじ

江戸城大奥、正月御鏡曳き。
将軍の所望で、女小姓の弥生が獅子頭の前で踊りを披露する。
弥生が獅子頭を手に取ると、突然、獅子の精が弥生に乗り移って姿を表す。
胡蝶の精が二人やってきて獅子の精と戯れる。
獅子の精は長い毛を豪快に振り、獅子の座に直って幕。

私のツボ

「鏡獅子なのに、なぜ毛振を描かないの?」

獅子物といえば毛振り。
「春興鏡獅子」の毛振も迫力があり、この演目の眼目と言えるでしょう。
このカードを見て「鏡獅子なのに、なぜ毛振を描かないのか?」とよく聞かれます。

他の獅子物と区別をつけたかったので、あえて毛振りは描かず、”前シテ”と”後シテ”の構図にしました。
もちろん毛振りの姿は絵になりますが、弥生の可憐さと獅子の勇壮さ、この対照的な二つの要素があっての「春興鏡獅子」と言えます。

弥生は獅子の精に乗っ取られてしまったのではなく、獅子の精が弥生の内に眠る猛々しい野生を呼び覚ましたのではないかと私は解釈しています。
処女の純粋さは、時に暴走しやすい危うさを孕んでおり、そこに獅子の精がシンクロしたのではなかろうか。
それが将軍の目の前で、しかも大奥で繰り広げられているかと思うと、これまた味わい深くなります。
大奥こそ、猛獣の棲家でありましょうから。

それはさておき、弥生の可憐なイメージで全体をまとめたかったので、このような控えめな構図になりました。

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