描かれている人物
白井権八
幡随院長兵衛
絵の解説
背景の題目塚
特徴的な書体は髭書体と呼ばれるもので、日蓮宗の筆法です。別名、はね題目。
鈴ヶ森処刑場跡には同様の題目塚が建てられています。
舞台ではかなり大きいですが、実物はその半分くらいの大きさです。
鶸色(ひわいろ)の着付けに○に井の字の紋、鮮やかな紅絹(もみ)の脚絆に前髪の鬘という典型的な若者の扮装です。
刀を改める権八に提灯をかざす長兵衛。
黒い着付の場合もあるので、黒も用意しました。
襦袢の襟の色を黒に変更。
着付けの衿元を狭く修正。
武士の家柄や堅気の人物は衿元を大きく開けないとのこと。
着方にも役柄が出るということをあらためて知りました。
当然といえば当然ですが。
それ以来、役柄の衿元の開き具合に目が行くようになりました。
あらすじ
「浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)」鶴屋南北作
全六幕十四場、第五段「鈴ヶ森」の場面
主な登場人物と簡単な説明
・白井権八(しらいごんぱち)
因州鳥取の白井兵左衛門の息子。
父を侮辱した本庄助太夫を討ったため江戸に逃げてきている。
・幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)
花川戸の侠客。
あらすじ
東海道品川宿の近く、刑場のある鈴ケ森の海岸。
処刑された者を供養する題目塚が建ち、夜には雲助たちがたむろする物騒な場所です。
白井権八という男を捕まえた者には褒美が出るという情報が入り、雲助たちはにわかに色めき立ちます。
ほどなく通りかかった白井権八。
まだ前髪の少年ですが、群がる雲助たちを斬り捨て追い散らします。
そこを通りかかった一丁の駕籠。
中には江戸で知らぬ者のない俠客、幡随院長兵衛が乗っていました。
長兵衛は、権八の大胆さに惚れ込み、その身の上と諸事情を知りつつ江戸での世話を引き受けます。
権八も申し出を喜び、再会を約束して二人は別れます。
私のツボ
雲助
この雲助たちが薄汚くてよろしいのです。
二十名弱おりまして、そのうちの六〜十名くらいは名前があります(人数と名前は舞台によって異なります)。
土手の十蔵、和尚の鉄、千住の鉄、岩間の蟹蔵、北海の熊六、東海の勘蔵などなど。
御馳走(厳密にいうと御馳走役では無いのかもしれませんが)雲助が紛れているので要注意です。
今までで一番驚いたのは二代目錦之助さんの雲助。
権八の方がニンにあうと思うのですが、まごうことなき雲助でした。
四代目左團次さんの雲助もちょっと驚きましたが、左團次さんは神出鬼没なので、今月はここに紛れていたか、とウォーリーを探せのような気分になりました。
「お若けえのお待ちなせえやし」
「待てとお止めなされしは、拙者がことでござるかな」
この一連のやりとりが大好きで、よく一人鈴ヶ森をします。
掃除の時にするとはかどります。
せっかくなので、続きを一部抜粋します。
長兵衛「問われて何の某と、名乗るような町人でもござりませぬ。
しかし、生まれは東路に身は住み慣れし隅田川、流れ渡りの気散じは、江戸で噂の花川戸、幡随院の長兵衛という、けちな野郎でごぜえやす。」
中略
長兵衛「(略)はばかりながら侠客(たてし)のはしくれ、阿波座烏(あわざがらす)は浪速潟、藪鶯(やぶうぐいす)は京育ち、吉原雀を羽がいにつけ江戸で男と立てられた、男の中の男一匹、いつでも尋ねてごぜぇやせ。蔭膳(かげぜん)すえて待っておりやす。」
「歌舞伎名作選 第四巻」東京創元社刊 より
長兵衛のセリフばかりですが、長兵衛あっての「鈴ヶ森」です。
播磨屋さんと天王寺屋さんの長兵衛が私のツー・トップです。
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