KNPC184 御存知鈴ケ森(ごぞんじすずがもり)

かぶきねこづくし

描かれている人物

白井権八
幡随院長兵衛

絵の解説

背景の題目塚
特徴的な書体は髭書体と呼ばれるもので、日蓮宗の筆法です。別名、はね題目。
鈴ヶ森処刑場跡には同様の題目塚が建てられています。
舞台ではかなり大きいですが、実物はその半分くらいの大きさです。

題目塚(原画)

鶸色(ひわいろ)の着付けに○に井の字の紋、鮮やかな紅絹(もみ)の脚絆に前髪の鬘という典型的な若者の扮装です。
刀を改める権八に提灯をかざす長兵衛。

白井権八(修正前)、幡随院長兵衛(原画)

白井権八の黒い着付けバージョン

黒い着付の場合もあるので、黒も用意しました。

白井権八の衿元修正パーツ

襦袢の襟の色を黒に変更。
着付けの衿元を狭く修正。
武士の家柄や堅気の人物は衿元を大きく開けないとのこと。

着方にも役柄が出るということをあらためて知りました。
当然といえば当然ですが。
それ以来、役柄の衿元の開き具合に目が行くようになりました。

あらすじ

「浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)」鶴屋南北作
全六幕十四場、第五段「鈴ヶ森」の場面

主な登場人物と簡単な説明

・白井権八(しらいごんぱち)
因州鳥取の白井兵左衛門の息子。
父を侮辱した本庄助太夫を討ったため江戸に逃げてきている。

・幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)
花川戸の侠客。

あらすじ

東海道品川宿の近く、刑場のある鈴ケ森の海岸。
処刑された者を供養する題目塚が建ち、夜には雲助たちがたむろする物騒な場所です。
白井権八という男を捕まえた者には褒美が出るという情報が入り、雲助たちはにわかに色めき立ちます。

ほどなく通りかかった白井権八。
まだ前髪の少年ですが、群がる雲助たちを斬り捨て追い散らします。

そこを通りかかった一丁の駕籠。
中には江戸で知らぬ者のない俠客、幡随院長兵衛が乗っていました。
長兵衛は、権八の大胆さに惚れ込み、その身の上と諸事情を知りつつ江戸での世話を引き受けます。
権八も申し出を喜び、再会を約束して二人は別れます。

私のツボ

雲助

この雲助たちが薄汚くてよろしいのです。
二十名弱おりまして、そのうちの六〜十名くらいは名前があります(人数と名前は舞台によって異なります)。
土手の十蔵、和尚の鉄、千住の鉄、岩間の蟹蔵、北海の熊六、東海の勘蔵などなど。
御馳走(厳密にいうと御馳走役では無いのかもしれませんが)雲助が紛れているので要注意です。
今までで一番驚いたのは二代目錦之助さんの雲助。
権八の方がニンにあうと思うのですが、まごうことなき雲助でした。
四代目左團次さんの雲助もちょっと驚きましたが、左團次さんは神出鬼没なので、今月はここに紛れていたか、とウォーリーを探せのような気分になりました。

「お若けえのお待ちなせえやし」

「待てとお止めなされしは、拙者がことでござるかな」
この一連のやりとりが大好きで、よく一人鈴ヶ森をします。
掃除の時にするとはかどります。

せっかくなので、続きを一部抜粋します。

長兵衛「問われて何の某と、名乗るような町人でもござりませぬ。
しかし、生まれは東路に身は住み慣れし隅田川、流れ渡りの気散じは、江戸で噂の花川戸、幡随院の長兵衛という、けちな野郎でごぜえやす。」
中略
長兵衛「(略)はばかりながら侠客(たてし)のはしくれ、阿波座烏(あわざがらす)は浪速潟、藪鶯(やぶうぐいす)は京育ち、吉原雀を羽がいにつけ江戸で男と立てられた、男の中の男一匹、いつでも尋ねてごぜぇやせ。蔭膳(かげぜん)すえて待っておりやす。」
「歌舞伎名作選 第四巻」東京創元社刊 より

長兵衛のセリフばかりですが、長兵衛あっての「鈴ヶ森」です。
播磨屋さんと天王寺屋さんの長兵衛が私のツー・トップです。

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