KNPC32, 33, 91 新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC32:(左から)籬(まがき)、奴妻平(やっこつまへい)
KNPC33:(左から)幸崎伊賀守、梅の方、園部兵衛
KNPC91:(左から)薄雪姫、園部左衛門

絵の解説

KNPC32:(左から)籬(まがき)、奴妻平(やっこつまへい)
短冊(薄雪姫が詠んだ歌が書かれている)が結びつけられた桜の枝を持つ妻平。
”春ごとに 見る花なれど 今年より 咲きはじめたる 心地こそすれ”
道命法師(詞花和歌集)

腰元籬と奴妻平(原画)

KNPC33:三人笑
双方の子供たちが共に助かったことを知り、自らの死が迫るなかで笑い合う幸崎と園部、泣かずに笑えと梅の方も混じっての三人笑いとなる場面。
幸崎伊賀守と園部兵衛が携えて来た首桶にはどちらも願書(嘆願書)が入っていた。

幸崎伊賀守、梅の方、園部兵衛(原画)

KNPC91:(左から)薄雪姫、園部左衛門
薄雪と左衛門の見染め。

薄雪姫、左衛門(原画)

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・幸崎伊賀守(さいざきいがのかみ)
薄雪姫の父、大膳の企みから娘を守ろうとする

・秋月大膳(あきづきだいぜん)
幸崎家、園部家の失脚を企む。薄雪姫に横恋慕する

・園部兵衛(そのべひょうえ)
園部家の当主、左衛門の父

・梅の方(うめのかた)
兵衛の奥方

・松ヶ枝(まつがえ)
幸崎伊賀守の奥方

・薄雪姫(うすゆきひめ)
幸崎伊賀守の娘

・園部左衛門(そのべさえもん)

・腰元籬(こしもとまがき)
薄雪姫に仕える腰元

・奴妻平(やっこつまへい)
左衛門に仕える奴

他、葛城民部(かつらぎみんぶ)、団九郎、来国行(らいくにゆき)などがいます。

あらすじ

花見
桜満開の清水寺の境内で、園部兵衛の子息・左衛門と幸崎伊賀守の息女・薄雪姫が、歌を交わして逢瀬の約束をする。
薄雪姫が左衛門あてに書いた手紙は、秋月大膳の家来の手に渡る。
一方、刀鍛冶の団九郎は、左衛門が奉納した刀に謀反の疑いとなるヤスリ目を入れる。
これを見咎めた刀鍛冶の来国行は、秋月大膳の手裏剣によって殺され、妻平は大膳方の奴たちを大立廻りの末に蹴散らす。

詮議
秋月大膳が、左衛門と薄雪姫が国家転覆を企てていると言い立てる。
その証拠が二つ。
六波羅探題に奉納した刀に謀反の印となるヤスリ目が入っていたこと(団九郎が入れた)、薄雪姫からの艶書が謀反の暗号であること。
葛城民部の計らいで、姫は園部家に、左衛門は幸崎家へ預けて軟禁させる。
園部兵衛と幸崎伊賀守が互いの子の不首尾を詫びその処遇を相談する。

広間・合腹(あいばら)
兵衛と伊賀守はそれぞれの子を逃し、互いに陰腹(人知れず切腹して隠していること)をし、夫の死を嘆く妻・梅の方と共に“三人笑”に興じる。
駆けつけた松ヶ枝とともに、兵衛と伊賀守の出立を見送る。

ーー通常、ここで幕ーー
この後、「刀鍛冶正宗内(かたなかじ まさむね うち)」がつくことがあります。

刀鍛冶正宗内(かたなかじ まさむね うち)
時代物から一転して世話の世界。
調伏のヤスリ目を入れた団九郎の父、刀鍛冶正宗の家が舞台。
前半は刀鍛冶の秘法の湯の温度をめぐる話、
後半は団九郎の悪事が露見し改心する”もどり”の話。
そうこうしているうち、旅の途中の籬と薄雪姫が正宗の鍛冶屋に宿を求めて立ち寄ります。
薄雪姫を追ってきた大膳の手下たちを団九郎が追い払って幕。

物語としては、最終的に来国行の息子が秋月大膳を討ちとって終わる(ここの場面は上演されません)。

私のツボ

怖い三人笑

古風でたっぷりした時代物の大作。
上演時間は通しで約四時間と長丁場で、登場人物も見所も多いです。
大顔合わせで上演される豪華な演目なので、観るにも描くにも気合が入ります。

しかし、過度の気合と欲張りは収拾がつかなくなるので危険です。
一演目一枚、多くても二枚まで、それ以上は再演の機会を待つ
と私なりのルールもあり、
ここは物語の軸となる二組の恋人と、この演目の眼目たる”三人笑”に絞りました。

”三人笑”については、さまざまな解釈がありますが、私はどう反応して良いのか戸惑います。
この笑いが怖い。怖いけど見てしまう。
死と生のはざま、狂気と理性がせめぎ合う瞬間。
今生の思い出に、せめて笑って死にたいという痛切な笑いと解説にはありますが、
どのような表情で描いたら良いのか、過去の舞台写真をできる限り探して見比べました。
一様に歪んだ笑顔で、やはり怖い。
声を出して笑うという運動行為で、死への恐怖を紛らそうとしているのかなと解釈しました。
腹は痛み、笑えば余計に出血して体力も消耗しますが、その痛みに精神を支配されてしまった方がかえって楽なのかもしれません。

恋人たち

初々しい若い二人と、男と女の大人の二人。

薄雪姫と左衛門、良家の令嬢子息の初々しい二人は歌舞伎の定番中の定番です。
この場合、大体においてお姫様の方が積極的です。

そんな二人を取り持つ大人の二人。
腰元と奴というのもこれまた定番です。
この籬もそうですが、腰元は大人の色気があります。

昭和初期頃は、籬と妻平のイチャイチャがもっと長く、二組の恋人たちが抱き合うのを見た坊主が階段から転げ落ちるという入れ事があったようです。
それも見てみたいですが、上演時間がさらに長くなるから今は難しいのでしょう。
物語の軸をなす、対照的な二組を描きました。

「新薄雪物語」といえば実悪の大御所・秋月大膳ですが、また次回。
ほか、遠眼鏡ではしゃぐ腰元たち、妻平の華やかな立ち廻り、葛城民部が扇の影で姫と左衛門の手を重ね合わせるところなどなどたくさんあります。
また上演される日を心待ちにしています。

コメント