
描かれている人物
赤枠上:(左から)二代目尾上ことお初、岩藤
同下:(左から)二代目尾上ことお初、岩藤
中央:岩藤
絵の解説
岩藤を弔う尾上と復活した岩藤

朝日の弥陀の像を掲げる尾上、像によって霊力を失う岩藤

”ふわふわ”
恨みを晴らすべく多賀家を目指す岩藤の霊
「ハテ風情(ふぜい)ある ながめじゃなァ~」

あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・尾上(おのえ)
中老。「加賀見旧錦絵」にて尾上に仕えたお初。
尾上の名をついで二代目尾上となった。
・岩藤(いわふじ)
「加賀見旧錦絵」にて尾上を草履で打ち据えて侮辱し、死に追いやった局。
お初に討たれ、野晒しになって白骨化していた。
他、多賀大領、お柳の方、望月弾正などがいます。
*鳥井又助及び彼に関わる人物は次回扱います。
あらすじ
*上演によって演出が異なる場合があります
発端 多賀家下館奥庭の場
5年前のこと、
多賀家では剣沢弾正に唆された局岩藤が、お家乗っ取りを企み、中老尾上に無実の罪を着せた上に草履で打ち据えて侮辱し、尾上は自害する。
尾上の召使だったお初は岩藤を成敗し、その功によって二代目尾上として中老となった。
一方、岩藤は八丁畷の馬捨場に打ち捨てられ、野鳥に食われて白骨化していた。
—-
多賀大領は、お家乗っ取りを企む望月大膳に操られ、愛妾お柳の方にうつつを抜かして遊興に耽っていた。
大領の屋敷。
新清水の奥庭で花見が催されていた。
忠臣の花房求女は、大領の放埒を諌めるが、かえって不興を買う。
おまけに求女は家宝の香炉を紛失し、怒った大領は求女を成敗しようとする。
正室の梅の方の取りなしで命は助かるが、刀と裃は取り上げられ、勘当される。
香炉の紛失は望月弾正一派の仕業であった。
弾正は取り上げられた求女の刀を自分のところに届けるよう命じる。
序幕 多賀家下館堀外の場
求女の下僕の鳥井又助は、追放された上に病で足腰が立たなくなった求女を引き取って世話をしていた。
主人の処遇を相談しようと、多賀家の忠臣安田帯刀(やすだたてわき)に会いに来る。
そこで弾正の家来・蟹江一角に出会い、お柳の方暗殺を持ちかけられる。
大領をたぶらかすお柳の方は望月弾正の妹で、望月弾正が黒幕であること。
まずはお柳の方を求女の刀で殺害することで、求女の手柄となり、帰参が許されるであろうと説明する蟹江。
求女の帰参が叶うならと、求女の刀を受け取る又助。
この後、お柳の方が船で浅野川を渡って帰るので、絶好のチャンスであること、目印は菊唐草の紋が入った提灯と説明を受ける。
又助が立ち去った後、一角は梅の方の提灯を菊唐草の紋に取り替えるよう弟の主税に指示する。
浅野川川中船中の場
大領から追い返された梅の方は浅野川を船で渡っていた。
提灯は菊唐草の紋。
水中から突然現れた又助に刺される。
浅野川堤の場
岸に泳ぎ着いた又助は安田帯刀とすれ違う。
帯刀は求女の刀の鞘を拾う。
二幕目 馬捨場八丁畷三昧(はっちょうなわてさんまい)の場
尾上の命日。
二代目尾上は、お初の装束で先代の墓参をした帰り、岩藤の霊に回向しに野辺にやって来た。
弥陀像を出して拝もうとすると、意識を失い、その間に岩藤の霊が蘇る。
意識を取り戻した尾上が驚いて岩藤の霊に弥陀像を向けると、霊は退散する。
この騒ぎで尾上は弥陀像を紛失してしまう。
花の山の場
蘇った岩藤の霊は、満開の桜の中、傘をさしてふわふわと飛んでいく。
三幕目 多賀家奥殿草履打ちの場
大領の妹花園姫は毎晩、岩藤の悪夢にうなされていた。
悪霊退散の効力がある弥陀像を紛失した尾上を、弾正は「お家乗っ取りのためにわざと失くした」と糾弾する。
すると、忽然と岩藤が現れ、尾上を侮辱し、あまつさえ草履で打ち据える。
そこへ安田帯刀が弥陀像を見つけたと馳せ参じる。
尾上が弥陀像を向けると岩藤は身動きが取れなくなり、退散する。
四幕目 鳥井又助内切腹の場
又助は釣餌を売って生計をたてながら、病で足腰が立たなくなった主人求女を引き取り世話をしていた。
又助には、盲目の弟の志賀市と妹のお露がいた。
お露は求女と深い仲になっており、薬代のため廓に身を売る決意をする。
求女は、病が治り、帰参することができた暁には妻にすると約束する。
又助は二人に夫婦固めの盃事をさせ、おつゆは家を出る。
そこへ安田帯刀がやってきて、浅野川岸で拾った刀の鞘を差し出し、梅の方が殺害されたと告げる。
お柳の方と間違えて梅の方を殺したこと、その刀の鞘が求女のものだったため求女に嫌疑がかかること。
帯刀は切腹を勧めて奥へ下がる。
ことの次第を知った又助は愕然とし、求女は妹ともども縁を切ると言い自室へ下がる。
そこへ弟の志賀市が、琴の師匠の家から戻る。
師匠の計らいで、琴が上手に弾けたので又助たちに聴かせるようにと琴を運び込んでもらう。
何が起こっているのか気付かない志賀市は琴を奏でる。
その音色を聴きながら又助は切腹する。
奥から出てきた帯刀と求女に、又助は「蟹江一角の提案で、お柳の方と思って梅の方を殺した」と語る。
そこへ、おつゆが薬代の百両を持って帰ってくる。
帯刀は求女の帰参がかなうよう尽力し、妹弟の面倒も見ると約束する。
又助はそれを聞いて息絶える。
大詰 多賀家下館奥庭の場
悪事が明るみになった弾正は、お柳の方とともに大領を殺そうとするが討たれる。
家宝の香炉も取り戻され、お家安泰、一件落着、めでたしめでたし。
私のツボ
ふわふわ
「加賀見山再岩藤」の宙乗りは別名”ふわふわ”と呼ばれます。
昔は人が抱えて宙乗りの演出をしていたためフワフワと上下に揺れた様子に由来する、と何時かの筋書きで読んだのですが、典拠を明示できないので”〜らしい”に留めておきます。
それもまた怪異譚らしくてよろしいということにします。
「加賀見山再岩藤」は「加賀見山(鏡山)旧錦絵」の後日譚ですが、岩藤の霊が強烈すぎて、本当に黙阿弥なの?南北では?と思っていました。
調べてみると天保8年3月の浄瑠璃「春野辺桜袂(はるののべかざしのたもと)」で骨寄せの岩藤が初登場、作者は鶴屋南北。
これを黙阿弥がアレンジして安政7年3月に「加賀見山再岩藤」として上演されます。
やっぱり南北先生の手にかかっていました。
恐ろしさよりも、どことなく可笑しさが漂う岩藤の霊。
この”ふわふわ”の岩藤はとても気持ちがよさそうで、花見がしたくて蘇った風流な幽霊にしかみえません。
岩藤の亡霊が憎めないのは、この”ふわふわ”の場面のおかげだろうと思います。
武家のプライド
「加賀見山再岩藤」は多賀大領を軸として岩藤と鳥井又助の二人の物語によって構成されています。
岩藤はお家乗っ取り派、又助は彼らに翻弄される側、両者が直接関わることはありませんが、騒動の両極にいる人物です。
今回は岩藤に焦点をあてて構図をまとめました。
骨寄せ、宙乗り、退散。
蘇った動機は、「加賀見山(鏡山)旧錦絵」で果たせなかったお家乗っ取りのために、と岩藤自身が語っていますが、結局、尾上ことお初を草履で叩きたかっただけではと思っています。
前段で、お初に草履を頭に乗せられて侮辱されたことを恨み、その意趣返しのために蘇った。
お家乗っ取りといっても望月弾正との連携はイマイチで、せいぜい花園姫を苦しめる程度。
尾上を草履で叩いた後、弥陀像を向けられてあっさり退散してしまいます。
あっさり退散したのは弥陀像の力というより、尾上に恨みをぶつけて少しスッキリしたから霊力が弱まったのでは?とオカルトじみた分析をしてしまうのでした。
尾上を草履で打つ、これが蘇った目的で、そのために体力(霊力)を温存していたとしか思えません。
目には目を、歯には歯を、草履打ちには草履打ちを。
恐るべし武家の、局のプライド。
それもあってか望月弾正の目論見は失敗し、多賀家は危機を乗り越えるのでした。
むしろ、望月弾正が岩藤に利用されたともいえ、そう思うと弾正という名前の割に影が薄いのも納得がいくのでした。

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