AKPC26 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)の女たち

もうひとつ

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描かれている人物

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赤枠左上:徳兵衛女房お辰
赤枠右上:団七女房お梶と市松
赤枠左下:釣船の三婦女房おつぎ
赤枠右下:琴浦

絵の解説

左:祭りの料理の鯵を焼くおつぎ。藍の総絞りの浴衣が多い。柄は役者によって異なります。
右:三婦の家に預られている琴浦

原画

左:お辰
黒の絽に博多帯。
(紗の場合もあり)
三婦の家の玄関先、日傘を畳むところ。

右:お梶
住吉神社にて
息子の市松とともに出牢した団七に会いに来たところ

原画

カボチャは長町裏の竹垣に絡まっているもの
朝顔はお辰の扇子の柄
提灯は三婦の家に下げられているもの
「夏祭浪花鑑」はふんだんに季節の風物詩が散りばめられています。

あらすじ

あらすじ

「夏祭浪花鑑」全九段

主な登場人物と簡単な説明

・お辰(おたつ)
一寸徳兵衛の妻。
徳兵衛が喧嘩沙汰で国元を出奔し、備中玉島で夫の留守を預かっていたが、
お咎めが解けたので夫を迎えにきた。
徳兵衛が大坂にいる間、何かと世話を焼いてくれていた三婦に礼を言いにきた。

・お梶(おかじ)
団七九郎兵衛の妻。三河屋義平次の娘。
団七との間に市松という息子がいる。

・おつぎ
団七の面倒を見ている老侠客・釣船の三婦の妻。

・琴浦(ことうら)
堺の遊女。玉島磯之丞に身請けされた。
大鳥佐賀右衛門に横恋慕されている。

あらすじ

住吉鳥居前の場
堺の魚商人で侠客の団七九郎兵衛は、
大鳥佐賀右衛門の中間を傷つけて入牢していたが、
玉島兵太夫の計らいで赦免された。

住吉神社前。
団七の女房と息子、老侠客で運送商の釣船の三婦が迎えに来るが、さっそく一悶着。
三婦が団七の旧主・玉島磯之丞を救い、団七が磯之丞の恋人・琴浦を救う。
そこへやってきた大鳥方の侠客・一寸徳兵衛と喧嘩になるが、
ともに玉島家の恩をうけた身と分かり、兄弟分の誓いをする。

釣船三婦内の場
放蕩息子の磯之丞は勘当され、清七と改名して道具屋の手代となる。
その道具屋の娘と恋仲になり、先輩の手代と団七の舅・義平次らの奸計によって
五十両を騙し取られた挙句、殺人まで犯してしまう。

という経緯があり、磯之丞と琴浦は三婦の家に匿われている。
大坂では詮議が厳しいので二人を旅に出すことにする。
そこへ、徳兵衛の女房・お辰が訪ねてくる。
三婦はお辰の侠気に感服して、清七を預けて備中へ逃す。
その直後、義平次がやってきて、
団七に頼まれたと偽って琴浦を駕籠で連れ去る。

長町裏の場
団七は後を追い、長町裏で琴浦を奪い返す。
しきりに金を無心し、悪態をつく義平次と争ううち、殺してしまう。
団七は祭りの神輿を担ぐ人々に紛れて逃げる。

私のツボ

上方の女たち

金と色、欲が絡んでこんがらがって、
次から次へとトラブルが起こり、果ては殺人まで。
すべては大坂の夏の暑さのせい。
祭りと殺しの様式美の夏狂言です。

今回は
”「夏祭浪花鑑」の女たち”というテーマでまとめました。

主要な登場人物が皆クセがあって、
男も女も気が強くてとにかく喧嘩っ早い。
そこが楽しいのですが、中でも大好きな役はお辰。
お次はおつぎ。おつぎだけに。

お辰は登場時間は短いですが、そのインパクトは強い。
立役が兼ねることも多く、肝が座った中年女の色気と貫禄があります。

おつぎは、元侠客の女房だけあって、
昔はヤンチャしていたという名残があります。
お辰にヤキモチを妬くのもご愛嬌。
磯之丞をめぐる騒動で、三婦が数珠の戒めを解いて「元の釣船」に戻り、
大鳥佐賀右衛門の元へ向かう夫を見送る際のテンションの高さよ。
思わず裸足で家を飛び出して、アリャと気が付く姿はなんというか、
もう乙女のようで、二人の若い頃が偲ばれます。

残る女といえば、お梶と琴浦。
お梶といえば徳兵衛と団七の喧嘩を止める場面が有名ですが、
息子の手を引いている場面が平和なので個人的には好きです。
過去に描いた「夏祭浪花鑑」もお梶は同じアングルだったので、
私はこの場面がよほど好きなのでしょう。

琴浦は遊女ながら磯之丞への気持ちは一途で、
磯之丞が窮地に追い込まれても、浮気されても見捨てません。
匿われていても胸元を大きく開けるのは、
彼女なりのこだわりなのか矜持なのか、はたまた度量の大きさなのか。

丸本歌舞伎に登場する”上方の女”は情が厚く、
惚れた男にとことん尽くし、自己犠牲も厭わないイメージがあります。
「夏祭浪花鑑」の四人の女たちも同様です。
まったく世界観が違いますが、
「菅原伝授手習鑑」に出てくる女性陣と同じ温度を感じます。

一方、上方の男たちは江戸と同じく忠義を最も優先するのですが、
それは伴侶の女たちに家を守られているからこそで、
世界は女たちが支えている、
といったような上方の哲学のようなものを感じるのでした。

女たちが守る家とは、そのまま子供や親だったりと家庭を意味します。
男たちが守る忠義も、個人的に世話になった等の個人的事情によるところが多く、恩義に近い。
忠より恩。
あくまで個人への忠誠心であって、家名ではありません。
玉島家のためというより、磯之丞の父親に世話になった恩義から磯之丞を助ける。
行動原理はあくまで人情で、
そこが上方歌舞伎の世界の特色かなと思います。

「夏祭浪花鑑」の男たちはこちらをどうぞ
AKPC25 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)

KNPC61 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)
KNPC60 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわのかがみ)

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