AKPC45 『摂州合邦辻』③「天王寺万代池の段」

かぶきねこづくし


赤枠上段:(左から)次郎丸、合邦
同 下段:(左から)浅香姫、俊徳丸

背景:四天王寺万代池

絵の解説

俊徳丸と閻魔様を乗せた曳き車を引く浅香姫

原画

背景
万代池は四天王寺の南大門付近にあります。

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・合邦道心(がっぽうどうしん)
玉手の父。
現在は道心で、閻魔堂を建立しようと寄進を集めている。
元は鎌倉武士。
父は青砥左衛門藤綱(あおとざえもんふじつな)。

・俊徳丸(しゅんとくまる)
高安左衛門通俊の息子。
玉手御前に毒を盛られて癩病になった上に、玉手の求愛から逃れるため家出。
物乞いに身をやつし、万代池のほとりに住んでいる。

・奴入平(やっこいりへい)
浅香姫の家臣。家出した俊徳丸を探している。

・浅香姫(あさかひめ)
俊徳丸の許嫁。俊徳丸を探している。

・次郎丸(じろうまる)
俊徳丸の腹違いの兄。
母が側室なので相続権がなく、次男の扱いをされている。
家督と浅香姫を奪おうとしている。

あらすじ

春の彼岸の頃、参拝の人で賑わう四天王寺。
合邦は閻魔の首をのせた車を引いてやって来る。
踊り念仏でひとしきり寄進を集め、茂みで一休みする。

万代池のほとりにある筵(むしろ)小屋からみずぼらしいなりをした俊徳丸が出てくる。
そこへ浅香姫がやってきて、俊徳様は知らないかと尋ねる。
俊徳丸は名乗ることができず、訪ね人は巡礼の旅に出たと語り、再び小屋の中へ入る。

浅香姫が嘆いていると、奴入平が登場。
話を聞いた入平は、その小屋の男が怪しいと物陰に潜む。
すると俊徳丸が小屋から出てきて、姫との別れを嘆き悲しむ。
浅香姫が涙ながらに俊徳丸に縋り付くと、
次郎丸がやってきて姫を連れ去ろうとする。

休憩していた合邦が現れて次郎丸を取り押さえ、
浅香姫に俊徳丸とともに逃げるよう手押し車を預ける。
浅香姫は、歩けない俊徳丸をのせた車を引いて逃げ去る。

合邦は次郎丸を万代池に投げ込み、悠々と引き上げる。

私のツボ

閻魔様

赤姫が病身の恋人を曳き車に乗せて引っ張るの図、
といえば「小栗判官」の照手姫と小栗判官。
どちらも説経節がベースになっているため、
似るのは当然なのですが、
「小栗判官」と異なるのは俊徳丸の後ろに閻魔様の首が乗っていること。

照手姫は小栗判官を乗せた車を引いて熊野古道を歩きます。
なんたる健脚。
浅香姫が俊徳丸と閻魔様を乗せた車を引いて向かったのは合邦の家。
現在、合邦辻閻魔堂があるところとされています。
四天王寺から合邦辻閻魔堂はそこまで離れていないのと、
熊野古道のような山道ではないのでさほど大変では無いとはいえ、
青年+大きな木彫りの閻魔様を引いていくのは容易ではありません。
さすが恋人のためなら百人力の赤姫です。

俊徳丸と閻魔様がちんまりと曳き車に乗っている様が面白くて絵にしました。
この閻魔様の首は、続く「合邦庵室」での合邦宅の玄関に鎮座しています。

「住吉大社の段」と同じ展開の次郎丸をアクセントにしました。
次郎丸は憎まれ役ですが、すべからく計略は失敗し、腕っぷしも弱い。
彼の高安家における立場を考えれば不憫でもあり、
玉手御前が次郎丸を庇おうとしたのも少し理解できます。

KNPC207 「當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)」

KNPC208 「當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)」

青砥左衛門藤綱

合邦の父という設定ですが、
白浪五人男でお馴染み『青砥稿花紅彩画』の大詰「極楽寺山門の場」で突如登場する役人です。
鎌倉時代の執権・北条時頼に仕えた武士で、大岡越前と並び称される名奉行です。
なぜ黙阿弥は幕切の一幕に藤綱を登場させたのか、
一般的には勧善懲悪の結末にするために登場させたと言われています。
すなわち、藤綱は正義の象徴。
『青砥稿花紅彩画』は泥棒たちの物語なので、
最後は正義が勝つというオチにまとめたというのが定説です。
詳しい考察は専門家に譲ります。

で、この正義のヒーローたる藤綱が合邦の父という設定なのですが、
おそらく合邦に箔をつけるため、
義に厚く、実直で屈強な鎌倉武士という側面を強調したかったのかなと思います。

上方なので、平家や源氏の末裔でも良いのではと思うのですが、
実直な武者(むしゃ)のイメージはやっぱり坂東武士といったところでしょうか。
あとは物理的に遠い東国の坂東武士の方が扱いやすかったのかなとも思います。

腕っぷしのみならず、
オリジナル辻説法の踊りも上手で、なかなか芸達者な合邦道心です。

コメント