描かれている人物
赤枠左:(左から)天竺徳兵衛
赤枠右:(左から)吉岡宗観、佐々木桂之介、銀杏の前
下:天竺徳兵衛、吉岡総観の首、大蝦蟇
絵の解説
花道の引込み。
泳ぐような動きの水中六方。(修正前)
自害しようとする桂之介を止める宗観と銀杏の前(修正前)
大蝦蟇にまたがって登場する徳兵衛(修正前)
あらすじ
作 四世鶴屋南北
主な登場人物と簡単な説明
・天竺徳兵衛(てんじくとくべえ)
天竺帰りの船頭。
実は吉岡宗観の息子・大日丸(だいにちまる)。
・吉岡宗観(よしおかそうかん)
佐々木家の重臣。
謹慎中の桂之介を屋敷に預かっている。
実は大明国王の臣木曾官(もくそかん)で、
日本転覆を目論んでいる。
蝦蟇の妖術を操る。
・佐々木桂之介(ささきけいのすけ)
将軍家から預かった刀を紛失したこと、
銀杏の前との不義を咎められ謹慎中。
・銀杏の前(いちょうのまえ)
足利幕府の重臣・梅津掃部(うめづかもん)の妹。
佐々木桂之介とは恋仲。
あらすじ
室町時代。
異国帰りの徳兵衛が吉岡宗観の屋敷に呼ばれる。
将軍家の重臣・佐々木桂之介は宗観の屋敷で謹慎中であった。
桂之介の気晴らしのため、徳兵衛は異国の話を面白おかしく語る。
そこへ桂之介の恋人・銀杏の前が訪ねてくる。
刀紛失の詮議が目前に迫り、桂之介は自害しようとするが銀杏の前が止める。
宗観は二人を逃す。
二人を逃した申し訳に切腹しようとする宗観は徳兵衛を呼び寄せ、
自分の正体と徳兵衛の出自を明かし、蝦蟇の妖術を伝授する。
徳兵衛は、父・宗観の遺志を継いで日本を転覆させる決意を固める。
吉岡邸の裏手の水門から吉岡宗観の首を咥えた大きな蝦蟇が登場する。
その正体は徳兵衛。
徳兵衛は吉岡邸を脱出し、行方をくらます。
その後
徳兵衛は座頭・徳市に変装して、京都の梅津掃部の屋敷に現れる。
木琴を弾いて美声を披露。
しかし、徳兵衛は正体を見破られて庭の池に飛び込む。
徳兵衛は将軍の上使に化けて再び登場するが、
梅津の妻の色仕掛けによって正体を見破られる。
佐々木桂之介は紛失した刀を取り戻してお家再興。
徳兵衛は梅津らに再会を約束して立ち去る。
私のツボ
荒唐無稽で楽しい南北ワールド
お待ちかねの鶴屋南北ワールド。
家宝紛失によりお家お取りつぶしの危機というお馴染みの骨組みに、
怪しい超常現象が絡んで騒動が大きくなり、
恋愛話も少し盛り込み、すったもんだの末、
なんだかよく分からないけれど円満解決。
教訓やら訓示やら人類の普遍的な命題に対する考察やメッセージも無く、
もしメッセージがあるとすれば「舞台を楽しむべし」という
エンターテイメントに徹したプロ意識でしょうか。
その誰にも阿らない突き抜けた南北のセンスを私は愛してやみません。
南北ワールドに出てくるアイテムだったり設定だったりが
個人的にツボに刺さることが多く、「天竺徳兵衛」もツボにビシバシ刺さります。
ほんのり南蛮風味の演出で、徳兵衛の怪しさが独特であること、
宗観の屋敷の衝立の模様がソテツなのもポイントが高いです。
江戸時代はソテツは異国趣味のシンボルだったので、
早速それを取り入れる南北のフットワークの軽さよ。
「天竺徳兵衛」は色々なバージョンがあって、タイトルも微妙に異なります。
音羽屋、澤瀉屋も独自アレンジの徳兵衛ものがあります。
今回描いた「天竺徳兵衛韓噺」はそのアレンジの元となるベーシックなものです。
蝦蟇の妖術を使って、国家転覆をはかる。
なんとワクワクする物語でしょう。
しかも、人妻の色仕掛けであっさり計画が頓挫する、というのも楽しいです。
このノリは、天知茂の「江戸川乱歩の美女シリーズ」に近い味わいがあり、
最近はなかなかこのような味わいの映像を見ることができません。
狙っているのが透けて見えると、途端に鼻白んでしまいます。
そういった意味で、南北作品の歌舞伎演目は安心して楽しめます。
この振り幅の広さも歌舞伎の魅力です。
修正箇所
鬘なしで描きましたが、監修より鬘追加の指示を頂戴したので追加。
胸元のボタンを取る。
同じく、生首を咥えない構図にしていましたが、
こちらも監修より生首追加の指示がありましたので修正。
衣装修正
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