KNPC219 『義経千本桜』「木の実(このみ)」

かぶきねこづくし

描かれている人物

上:(左から)いがみの権太、小金吾
下:(左から)小せん、権太、善太郎
背景:下市村の茶店と椎の木

絵の解説

小金吾を挑発する権太

原画

家路に着く権太一家(修正前)

原画

舞台

あらすじ

『義経千本桜』三段目

主な登場人物と簡単な説明

・いがみの権太(いがみのごんた)
下市村の鮓屋の息子。親から勘当されている札付きの小悪党。

・小せん(こせん)
権太の女房。元は御所(ごせ)の遊女。吉野山の入口となる下市村で茶店を切り盛りしている。

・善太郎(ぜんたろう)
権太と小せんの息子。

・主馬小金吾(しゅめのこきんご)
平維盛の家来。
若葉の内侍と六代君を護衛しながら高野山へ向かう途中。

あらすじ

吉野山の入口、下市村の茶店。
平維盛を尋ねる若葉の内侍と一子・六代君、二人を護衛する主馬小金吾がやってくる。
一行が茶店で休んでいると、男に言いがかりをつけられ金をゆすり取られる。
小金吾たちが立ち去ると、男は茶店の女に悪事を嗜められる。
男は村で悪名高い”いがみの権太”、女はその妻だった。
子煩悩な権太は善太郎を背負い、女房と仲睦まじく家路に着く。

こちらもどうぞ↓
KNPC34、KNPC36 義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)その5 いがみの権太

私のツボ

愛すべきごんたくれ

『義経千本桜』は大好きな演目で、どの段も大好き。
どの登場人物も好き。
全員好き。
どの話が一番好きかと言われても答えられないのです。

これは、私が『義経千本桜』を語るときの枕詞。

さて「木の実」です。
セットで「小金吾討死」も上演されますが、今回この場面は描いていないので割愛します。

「すし屋」単体で上演されることも多いので、
『義経千本桜』の中でも上演頻度の少ない場面かもしれませんが、
「木の実」から「すし屋」を通して観ると、その平和な光景が後に続く悲劇をより深めます。

権太の描かれ方は上方と江戸で微妙に異なります。
どちらも”小悪党だけど根は優しい”権太ですが、
江戸は侠客のような親分肌なのに対し、
上方は単なるヤンチャな青年というか”ぼんち”に通じる甘さがあります。

女房の小せんは元遊女ということで、これが艶っぽく、秀太郎さんの小せんが絶品でした。
玄人めいた色気があって、指先、足捌き、目線、とにかく全身から遊里の香りが漂い、
さぞ権太が入れ上げたんだろうなと思わせる小せんでした。

話を戻して、
遊里を知っている二人、すなわち遊び人だった二人。
この遊里の甘い匂いがするのが上方の権太だと思います。
遊び人の色気というか、
同じアウトローでも博徒や侠客とは違う空気を纏っています。
一方、しっかり者の女房。
この組み合わせの夫婦は上方狂言の定番です。

小金吾を強請ったのも、特に理由はなくて、そこに飯の種があったから。
悪党の美学とか、そんなものは微塵もなくて、
その衝動の根っこは「女殺油地獄」の与兵衛と同じだと思います。
おそらく江戸っ子には理解できない、上方の感覚ではなかろうかと。
上方の演出だと、とりわけこの空気を感じます。

「木の実」で描かれる世界はそんな権太のよくある日常。
女房と息子と、仲良く花道を引っ込む姿が本当に平和で、「すし屋」を知る観客としては涙なしには見れません。

この花道の引込みはどうしても描きたかった。

というわけで、”権太の平和な日常”というテーマで強請の場面と花道の引込み。

権太一家と、維盛一家を対比させて描くのも良いなと思いましたが、
久々に上方の演出での上演だったので、権太に絞りました。

修正箇所

原画

善太郎の右手が不自然に長いとのご指摘を受けて修正。
小せんの襦袢の色を浅葱から白に修正。
なお、江戸の演出の場合は小せんの衣装の裾が長いこともありますが、俳優によります。

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