KNPC217 与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店妾宅の場

かぶきねこづくし

描かれている人物

枠左:お富
枠中央上:和泉屋多左衛門
枠中央下:蝙蝠安
枠右:与三郎
下:(左から)お富、与三郎

絵の解説

蝙蝠安、多左衛門(修正前)

原画

湯上がりのお富(修正前)
紅い糠袋を口に咥える場合もある。
俳優によりけり。

原画

石を転がす与三郎

原画

大詰の寄り添う二人(修正前)

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・お富(おとみ)
元深川芸者。
木更津で赤間源左衛門の妾となっていたが、与三郎と密通したことが露見し海に逃げる。
たまたま通りかかった和泉屋の番頭多左衛門に助けられ、妾となる。

・伊豆屋与三郎(いずやよさぶろう)
謹慎中の木更津でお富と密通。
お富を囲っていた赤間の親分の知るところとなり、与三郎は斬りさいなまれる。
その後、切られ与三と名乗り、蝙蝠安と組んでタカリを働くゴロツキとなる。

・和泉屋多左衛門(いずみやたざえもん)
和泉屋の大番頭。
お富を囲って三年経つが深い仲になっていないのは実の兄妹だから。
善人。

・蝙蝠の安五郎(こうもりのやすごろう)
通称・蝙蝠安。小悪党。
父親が和泉屋多左衛門のに出入りをして商売をしていたので、和泉屋には頭が上がらない。

あらすじ

作/瀬川如皐(せがわ じょこう)
三幕目 源氏店妾宅の場
めぐる月日も三年越、
赤間源左衛門に痛めつけられた与三郎は江戸に戻り、
切られ与三と異名をとって無頼漢の仲間入りをしていた。

蝙蝠安の手引きで強請に入ったのが偶然にもお富の家。
妾暮らしのお富を見て、胸を焦がす与三郎であったが
そこへ戻った多左衛門に十両を渡され一先ず帰る。

店から迎えが来たので多左衛門は守り袋をお富に渡して立ち去る。
守り袋の仲には臍の緒書が入っており、多左衛門が実の兄だと知る。

未練が残る与三郎は蝙蝠安を先に帰してお富のもとに戻る。
お富は仔細を話し、二人は多左衛門に感謝する。

私のツボ

幕切の違い

家の型というほど厳密なものではありませんが、「源氏店」では幕切の演出が大まかに2パターンあります。

与三郎がお富を抱き寄せて幕
現時点で最も多く採用される演出。

多左衛門が立ち去った後、動揺するお富のもとに与三郎が再び現れる。
仔細を知った二人は身体を寄せ合い、見つめあって幕。

※藤八がお富を襲おうとするのを与三郎が阻み、
柱に縛り付けられた藤八の前で二人寄り添う、または酒を酌み交わして仲を見せつける演出もあります。

多左衛門が立ち去って幕
1970年代頃までは一般的だった幕切。
現在でも成田屋はこの幕切です。

与三郎と蝙蝠安が立ち去った後、残されたお富と多左衛門。
そこへ井筒屋の番頭がやってきて多左衛門が店に戻ることになり、
お富に「後で見ておくように」と懐から出した守り袋を渡して立ち去る。
お富が中を見ると臍の緒書きが入っていて、多左衛門が実の兄とわかる。
お富が「そんならお前が兄さんかえ」と戸口に駆けつけ、
「火の用心に気をつけろ」と言いながら多左衛門が立ち去る。

―――
いつからお富と与三郎が寄り添って幕が主流になったのかは分かりませんが、
1975年の演劇界の読者のお便りコーナーに、
「源氏店の幕切が多左衛門で終わるのは物足りない。与三郎の引込みが中途半端。最後は与三郎で締めてほしい。云々」
といった投稿がありましたので、少なくとも1975年はまだ多左衛門で幕というのが一般的だったようです。
なお、多左衛門で幕が一般的だった理由は主に上演時間の都合だったようです。
昔(戦中ー戦後くらい)の歌舞伎舞台のセリフの音声を聞くと、
台詞廻しがゆっくりと鷹揚に聞こえるので、昔はもう少し全体的にスピードが緩やかだったように感じます。

以下、私の推測ですが、二人寄り添って幕という演出を取り入れたのは、当時(1970年代)、与三郎を当たり役にしていた十四代目守田勘弥かなと思っています。
お相手のお富は玉三郎さんがつとめ、歌舞伎座以外の劇場でよく「源氏店」を上演していたので、
そこで現在に至る幕切の演出が練り上げられていったのかなと思います。

もともと原作では与三郎が再びお富のもとへ戻り、お富を襲おうとしていた藤八を締め上げ、藤八の目の前で二人寄り添って幕なので、まったく新しい演出を加えたというわけでもありません。
成田屋さんは与三郎役で「与話情浮名横櫛」の興行を成功させた八代目團十郎に敬意を表して、旧来の多左衛門で幕の演出を採用しているのかなと思います。

個人的には二人が寄り添うラストが好きで、美男美女が見つめ合う姿にアテられつつ眼福眼福とニタニタさせられてこその「源氏店」です。
芸の力で「あぁもうご馳走様、お二人でよろしくどうぞ〜」と気恥ずかしくさせてほしい。
このラストの二人が濃厚だったりサラッとしていたり、色気よりも人情味に溢れていたり、配役によって味わいが異なるのも楽しみの一つです。

修正箇所

(1)与三郎の胸をはだけて傷を追加
(2)蝙蝠安の衣装
(3)お富の帯揚げの色を修正

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