KNPC38,39,40,41 「仮名手本忠臣蔵」〜七段目

かぶきねこづくし

描かれている人物

KNPC38:おかる、平右衛門、大星力弥
KNPC39:(左から)由良之助、おかる
KNPC40:(左から)由良之助、九太夫、おかる / おかる、平右衛門
KNPC41:(左から)九太夫、由良之助

絵の解説

酔いざましに外の空気にあたりに来たおかる

おかる(原画)

顔世御前からの手紙を届けにきた力弥

大星力弥(原画)

おかるに斬りかかろうとする平右衛門

寺岡平右衛門(原画)

おかるを二階から下ろす由良之助

原画

顔世御前からの手紙を読む由良之助、床下から盗み読む九太夫、手鏡で盗み見るおかる

原画

お逮夜(たいや)と知りながら強引に蛸を薦める九太夫とそれを受け取る由良之助。
現実界において、猫に蛸は禁物です。

原画

盗み見た密書の内容を平右衛門に耳打ちするおかる

原画

あらすじ

「仮名手本忠臣蔵」七段目

主な登場人物と簡単な説明

・大星由良之助(おおほしゆらのすけ)
塩谷判官の元家老。
敵を油断させるため、祇園の茶屋で放蕩三昧している。

・おかる
勘平のために祇園に身売りして遊女として働いている。

・平右衛門(へいえもん)
おかるの兄。塩谷家の元足軽。
刃傷事件の際は東国へ使いに行っていた。仇討ちの一味に加わりたい。

・大星力弥(おおほしりきや)
由良之助の息子。由良之助と一緒に放蕩三昧。

・斧九太夫(おのくだゆう)
塩谷家の元家老。師直側に寝返りスパイとなって由良之助を探っている。

他、三人侍、鷺坂伴内などがいます。

あらすじ

「一力茶屋」
判官の刃傷事件から半年。
塩谷浪人へ世間の同情と仇討ちの期待が高まっている。
そんな中、大星由良之助は、敵を欺くために祇園で放蕩三昧の日々を送っていた。
仇討ちの同志たちが一力茶屋を訪ね、決行を迫るが由良之助は軽くあしらうばかり。
おかるの兄・寺岡平右衛門は、仇討ちに加えてもらうよう嘆願書を手渡しにくるが、酔った由良之助は寝てしまう。

師直の家来・鷺坂伴内と内通している斧九太夫は、由良之助に仇討ちの意思があるかどうか確かめるため、お逮夜(命日の前夜で精進潔斎すべき夜)であることを知りつつ、生臭ものの蛸を勧める。
由良之助がためらわずに蛸を食べるのを見るが、それでも疑念は晴れず、九太夫は床下に潜んで様子を伺うことにする。

そこへ息子の力弥が人目を忍んで顔世御前の密書を届けにくる。

宴席から離れ、縁側で密書を読む由良之助。
だが、二階で涼んでいたおかるが、床下では斧九太夫が、密書を盗み読みしていた。
そうと知った由良之助は、おかるに身請け話を持ちかける。
口封じのため殺されるとも知らず、おかるは身請け話を喜ぶ。
由良之助の真意に気づいた平右衛門は、どうせ殺されるなら兄の手にかかって死んでくれ、仇討ちに参加するために手柄を立てさせてくれと頼む。
兄から父と勘平の死を聞いたおかるは悲しみのあまり癪を起こし、平右衛門に命を差し出す。
そんな兄妹の気持ちを知った由良之助は、死んだ勘平のかわりにおかるに刀を持たせ九太夫を突き刺し、平右衛門を四十七士に加える。

私のツボ

見どころたくさん七段目

「仮名手本忠臣蔵」の中でも、華やかで賑やかで、登場人物も多くて見どころたくさんの場面。
主人公、ヒロインはもちろん、幇間に鷺坂伴内に斧九太夫も出てきます。
絵になる場面が多いのですが、ポストカードは通し狂言オムニバス形式でまとめたので、「七段目といえば」の場面にしました。

まず、縁側で手紙を読む由良之助と、それを盗み読むおかると九太夫。
奥行きのある絵にしたかったので、やや強引な構図にしました。
おかるが手鏡で覗くのはまだ理解できるとして、九太夫はなぜ床下に潜んだのかなと思います。
広い茶屋で、たまたま由良之助が手紙を読む縁側の下にいた、とはなんたる嗅覚の鋭さでありましょう。

次に、由良之助がおかるを二階から下ろすところ。
このカットを入れたのは、軽口を叩きながら言葉巧みにおかるを手中に収めんとする由良之助が見応えがあり、好きな場面なので。
想定外の展開に、焦るな焦るな、と由良之助の心の声が聞こえるようで、むずむずします。

九太夫が由良之助に蛸を食べさせるところは、これも個人的に好きな場面であることと、背景の麻の葉模様の幕を描きたかったので。
七段目といえば、この水色とピンクの麻の葉模様の幕と朱色の壁です。
さらに、茶屋の食事の様子というのも珍しいです。
丸型の赤い漆膳は、祇園だけでなく吉原でも使われていました。

おかるが平右衛門に耳打ちするところは、二人の絡みを描きたかったため。
耳打ちする姿が絵になるというのもありますが、おかるが平右衛門に耳打ちしたことで、結果的におかるの命は助かり、平右衛門は念願かなって仇討ちに参加できました。
良い意味での、運命の分かれ道の瞬間かもしれません。

KNPC38のブロマイドを並べたような構図は、この役といえばこの姿、で選んでいます。

他、個人的に絵として描き留めておきたい!と思うのは、
めんない千鳥、
由良之助に布団をかける平右衛門、
見立てで遊ぶ由良之助(これはカットされる場合がある)
九太夫と伴内が由良之助の刀をチェックするところ(悪人二人が密談中)
懐紙をばら撒くおかる
といったところでしょうか。

東西の型

六段目に続き、七段目も東西で型が違います。
大きく異なる点は、おかるの衣装と幕切の見得。
他にも舞台美術など、細かい違いはありますが、座頭によって変わります。
上方は原本の人形浄瑠璃の演出に近いです。

上方の演出の胴抜き姿のおかるは廓の華やかさより、どこか遊女の物悲しさが漂います。
六段目の、おかるの実家の雨が染みた土壁が思い出され、翻弄される彼女の身の上が偲ばれ、少し切なくなります。

<おかるの衣装>
東京:藤色の紋付の裾模様、銀地に秋草模様の団扇
上方:胴抜、団扇のかわりに懐紙

<幕切の見得>
東京:二重の上に由良之助とおかる、平舞台に平右衛門と斧九太夫
上方:二重の上に扇をかざす由良之助、平舞台におかる、平右衛門と斧九太夫

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