描かれている人物
枠右上:幡随院長兵衛(ばんずいちょうべえ)
枠中央:女房・お時、長兵衛
枠左下:水野十郎左衛門
背景:藤の花
絵の解説
花川戸の自宅にて
しつけ糸を抜くお時。
悲しく切ないですが、大好きな場面です。
湯殿に槍を持って入ってくる水野
あらすじ
河竹黙阿弥 作
主な登場人物と簡単な説明
・幡随院長兵衛(ばんずいちょうべえ)
江戸中に名を知られた町奴の親分。
武士の出身だが、今は浅草花川戸で口入屋(くちいれや、人足などの働き手を斡旋する業務)を営んでいる。
・お時(おとき)
長兵衛の女房。
・水野十郎左衛門(みずのじゅうろうざえもん)
旗本奴(はたもとやっこ)の白柄組の頭目(とうもく)。
日頃から町奴(まちやっこ)と対立している。
他、唐犬権兵衛、倅・長松、近藤登之助などがいます。
あらすじ
序幕 村山座舞台の場
江戸の芝居小屋・村山座は大入で「公平法問諍」を上演中。
そこへ水野十郎左衛門の中間(ちゅうげん)が酔って乱入、芝居が中断する。
侍が相手では下手に手出しもできず、皆が困り果てているところへ、町奴の親分・幡随院長兵衛が出てきて事態を収拾する。
この様子を桟敷から見ていた水野十郎左衛門と渡辺綱九郎は、長兵衛を見咎める。
長兵衛の子分たちが駆けつけ、一触即発となるが長兵衛が制止する。
二幕目 花川戸長兵衛内の場
三社祭で華やぐ長兵衛の家。
和解の酒宴を開くので長兵衛に来てほしいと、水野の屋敷から使いが来て、長兵衛は快諾する。
先日の仕返しに自分を殺すための罠だと子分たちが長兵衛に訴えるが、ここで逃げたら男がすたると聞き入れない。
身支度を整えた長兵衛は、息子の長松には堅気の暮らしをさせるよう女房・お時に言い置いて、ひとり水野の屋敷へ向かう。
三幕目 水野邸座敷の場 / 同 湯殿の場
水野は長兵衛の来訪を歓迎し、和やかに酒宴が始まる。
長兵衛が元は武士だという噂話が出て、請われて剣術を披露する。
こぼれた酒が長兵衛の着物を濡らしてしまい、水野に風呂をすすめられる。
湯殿に案内された長兵衛の前に水野が現れ、槍を突き出す。
長兵衛は丸腰で応戦するが、重傷を負う。
「さぁ、どこからでもつかっせぇ」
敵ながら天晴れ、殺すのは惜しいと思いながら、水野はとどめを刺す。
私のツボ
しつけ糸
長兵衛と水野の二人の男に絞りました。
長兵衛といえば、花川戸の自宅での、白で染め抜いた昇鯉の黒い着付に煙管を持つ姿。
これは外せません。
宿敵・水野はやはり湯殿で槍を持った姿。
背景の藤は、水野の庭に咲き誇る藤棚から。
むせかえるような庭の景色、まさに「木の芽時」です。
これだけでも十分ですが、もう一声欲しいと空耳が聞こえます。
もう一場面加えるなら、長兵衛と長松との別れが妥当ですが、これは敢えて描かず、長兵衛とお時の夫婦の別れの場面にしました。
父と子の別れの場面は他の演目にもありますし、わりと似た構図になってしまうので、どうしてもという場合だけにしています。
ここで描いたカットは別れの場面というより、お時がしつけ糸を抜いているところですが、実質別れの場面だと思います。
言葉も視線も絡みませんが、その二人の沈黙が胸に迫ります。
侠客の女房という自覚でグッと感情を押し殺しているかのようなお時の表情。
というわけで、わかりにくいのですが、お時がしつけ糸を抜いている場面を加えました。
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