KNPC101 曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤丸枠:皐月(さつき)
青丸枠:逢州(おうしゅう)
背景:(左から)御所五郎蔵、与五郎、星影土右衛門

絵の解説

男伊達同士の睨み合い。
二人が取り合う(と言うより、土右衛が邪魔に入っているだけだが)皐月。
この後続く悲劇の発端となった逢州。
二人の侠客、二人の傾城、花の吉原。
とても歌舞伎的な情景です。

(原画)

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)
元は須崎角弥という侍で、浅間巴之丞(あさま ともえのじょう)に仕えていた。
腰元の皐月と不義密通したため家を追われ侠客になっている。
二人の不義を密告したのは、皐月に横恋慕していた同僚の土右衛門。

・皐月(さつき)
五郎蔵の女房

・星影土右衛門(ほしかげどえもん)
元は浅間家に仕えていたが、皐月をしつこく追いかけ回して家を追われる。
吉原を縄張りとする侠客となる。

・逢州(おうしゅう)
皐月の朋輩。
五郎蔵と皐月の旧主、巴之丞がいれあげ、二百両と言う借金を作っている。

あらすじ

前半の「時鳥殺し(ほととぎすごろし)」は省略します。

「御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)」
五条坂仲之町の場
都の色里、五条坂仲之町に星影土右衛門が門弟を伴ってやってくる。
そこへやってきたのは、御所五郎蔵とその子分たち。
すれ違いざまに、五郎蔵と土右衛門は互いの顔をみて驚く。
土右衛門は、生活苦のため今では花魁になっている皐月を自分のものにすると宣言。
一触即発の状態になるが、そこへ甲屋の主人与五郎(または女主人。座組によって変わります)が止めに入り、双方をなだめる。

「甲屋奥座敷」
五郎蔵は、旧主・巴之丞の借金を返すため金策に奔走する。
心配する皐月に土右衛門は金の工面(すなわち身請け)を申し出る。
ただし、条件として五郎蔵に愛想尽かしをすること。
五郎蔵を想う皐月は満座の席で偽りの愛想尽かしをする。
怒り狂った五郎蔵は金を受け取らず立ち去る。

癪を起こした皐月に代わって逢州が土右衛門を送って出る。
土右衛門の面目を立てるため、逢州は皐月の打掛と提灯を借りて皐月になりすます。

「廓内夜更けの場」
皐月の愛想尽かしを本心と勘違いした五郎蔵は、皐月を殺そうと決意して待ち伏せする。
そこへ土右衛門と、皐月の裲襠を羽織った逢州がやって来る。
五郎蔵は、皐月と勘違いして逢州を殺す。
土右衛門と五郎蔵が斬り合って、「まずはこれぎり」と切り口上で幕。

*土右衛門が忍術を使って逃げる場合、逢州と一緒に殺される場合もあります。

この後、まれに「五郎蔵内切腹の場」が上演されます。
真相を知った五郎蔵は自害しようとする。
そこへ廓を抜け出した皐月がやってくる。
二人は尺八と胡弓を手に自害する。

私のツボ

「御所五郎蔵」のサビ部分

通しで上演されることはあまりなく(「時鳥殺し」自体、2003年以降上演されていません)、「五条坂仲之町の場」だけの場合もあります。
物語はよくある時代世話物ですが、黙阿弥作だけあって通しでもダイジェスト版でも楽しめる演目です。

カードを描くとき、なるべく一眼で何の演目なのか分かる場面を描いています。
言うなれば、少し聴いただけで何の曲か分かる”サビ”部分をメインに描くようにしています。

「御所五郎蔵」も見どころ・描きどころが多い演目ですが(このフレーズ、よく出てきますね)、やはりこの「五条坂仲之町の場」が ”ならでは” の場面だと思います。
背中に尺八をさして墨絵の着付の五郎蔵と、睨み合う黒い着付の土右衛門。
この場面の前に、両花道からそれぞれ子分を従えて登場し、渡り台詞のつらねがあります。
ここも壮観ですが、人物(猫)が小さくなるのと、絵に動きが乏しいので却下しました。

と言うわけで、一触即発の瞬間。
二人の男の脳裏にあるのは美しい傾城の皐月。
逢州は、この後の展開のキーパーソンなので描き加えました。

二人の間に仲裁が割って入る構図は歌舞伎の定番です。
「鞘当」、「夏祭浪花鑑」、留男ではありませんが「三人吉三」も同様の構図です。
安定感のある構図で大好きです。

背中で語る男

五郎蔵はあえて背面で、尺八と背中の龍の模様を強調しました。
顔を描かないのは、絵を描くうえであまり推奨されませんし、まして主役なのであり得ない構図ではあります。
なぜ、このような構図にしたかというと、
それぞれの顔を描くよりも、睨み合って緊張感がある構図にしたかったことが理由その1。
尺八を強調したかったことが理由その2。
そして、背中で語る男・五郎蔵を描きたかったことが理由その3。
グッと顎を引いた五郎蔵に対して、土右衛門はニューッと首を伸ばしています。
舞台ではここまで首は伸びません。
そこは猫なのでご容赦ください。
動じない男、五郎蔵を描きたかったので背中からの視点になりました。
その後、怒って悲劇を招くわけですが、男伊達の五郎蔵といえども皐月という弱点があったというわけです。

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