KNPC188 高時(たかとき)

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤枠左:衣笠(きぬがさ)
同中央:高時の飼い犬・雲龍
同右:高時(たかとき)
下:高時と天狗たち

絵の解説

高時の闘犬・雲龍。専用の籠に乗って登場するお犬様。
野良犬と喧嘩して、三郎の母・渚に噛み付いてしまい、命を落とす。

雲龍(原画)

<北條家奥殿(ほうじょうけおくでん)の場>
衣笠、高時
宴席で舞を舞う衣笠。

衣笠 修正前 (原画)

幕開き、高時は上手の柱にもたれかかって酒を飲んでいる。

高時(原画)

田楽を教えると言って高時をもてあそぶ烏天狗たち

烏天狗と高時(原画)

あらすじ

「北條九代名家功(ほうじょうくだいめいかのいさおし)」全三幕のうち一幕目
河竹黙阿弥 作

主な登場人物と簡単な説明

・北條高時(ほうじょうたかとき)
権力をほしいままにして田楽(でんがく:日本の伝統芸能)や闘犬に入れ込み、贅沢と傲慢の限りを尽くす執権。

・衣笠(きぬがさ)
高時の愛人。

他、安達三郎、渚、泰松、大仏陸奥守(おさらぎむつのかみ)、秋田城之介(あきたじょうのすけ)などがいます。

あらすじ

北条家門外の場
鎌倉時代末期、幕府の執権・北條高時の屋敷の門前。
浪人安達三郎は、高時の愛犬・雲龍が母に噛み付いたため犬を殺してしまう。
三郎らは北條家の家来たちに連行される。

北条家奥殿の場
高時が酒宴を楽しむところ、愛犬が殺されたという報告が入る。
怒った高時は犯人を死罪にするよう命じる。
高時は大仏陸奥守に諌められるが、聞き入れるどころか彼をも死刑にしようとする。
先祖の命日である今日は殺生は慎むべきとの秋田城之介の意見に、ようやく三郎の助命を承知する。

一同が退出した後、秋風と共に大勢の烏天狗が現れ、激しい舞を舞いながら高時を翻弄する。
やがて烏天狗たちの姿は消え、辺りには怪しい足跡が残っていた。

私のツボ

軽い味わい

幕開きの柱にもたれて酒を飲む高時、烏天狗たちの舞。
「高時」はこの二点に尽きると思います。

まず、幕開きの高時の横顔。
これが傲岸不遜な雰囲気で、どことなく退廃的で、とてもよろしいです。
柱にもたれかかって物思いにふけるの図、でパッと浮かぶのは「頼朝の死」の頼家ですが、この違いたるや、同じ権力の座にいながら雲泥の差です。
何が違うかというと、抱える苦悩や背負うものの有無。
父の死の謎、将軍家に生まれたプライド、家の名前、と抱えるものが多い頼家は、終始苦悩しています。

かたや高時は、どのような苦悩や業を背負っているのか言及されません。
高時の横暴さを生む彼の内面が描かれておらず、暴君につきものの”心の闇”や孤独が感じられません。
といって放蕩息子の悲哀も感じられません。
高時という人物、ひいては「高時」という演目全体が総じて軽いのだと思います。
立体感のない闇。

その軽さは烏天狗たちの舞でピークになります。
総勢八名の烏天狗たちですが、全くオドロオドロしくなくて、烏天狗と高時の演舞のようです。

「高時」は史実を重んじ荒唐無稽を排除する”活歴もの”なのですが、基づいた史実が「太平記」と軍記物語だったせいもあって、今となってはファンタジー舞踊劇の味わいがあります。

歌舞伎に精通した黙阿弥だからこそ”活歴もの”の歌舞伎自体に無理があり、つまらない舞台になることを見抜いていたのでは、と思います。
だからこそあえて烏天狗を史実に採用し、ファンタジーの逃げ道を用意したのではと勘繰ってしまいます。
表層だけで奥へ踏み込まない”軽さ”が活歴ものの醍醐味であり、そのおかげで他の演目に無い味わいが生まれ、作品が現代まで残り得たのかもしれません。

修正箇所

衣笠の衣装、鳳凰を猫由来の模様に修正。
鈴と肉球です。

衣笠衣装(原画)

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