KNPC145 「傾城反魂香(けいせい はんごんこう)」より「土佐将監閑居(とさのしょうげんかんきょ)の場」

かぶきねこづくし

描かれている人物

上段左枠:(左から)百姓鎌作、百姓庄右衛門、土佐修理之助(とさしゅりのすけ)、虎、土佐将監光信(とさしょうげんみつのぶ)
上段右枠:狩野雅楽之助(かのううたのすけ)
中段左枠:将監北の方(しょうげんきたのかた)
中段右枠:(左から)浮世又平(うきよまたへい)、又平女房お徳(またへいにょうぼうおとく)
下段左枠:又平女房お徳
下段右枠:浮世又平

絵の解説

虎が出ると訴えにくる近隣の百姓。
虎退治を願い出る修理之助。

原画

左:優しく静かに又平夫妻を見守る北の方
右:高股立ちで注進に来る雅楽之助。
銀杏の前の救出を頼みに馳せ参じる。

北の方、雅楽之助(原画)

「かか、抜けた!」

又平、お徳(原画)

苗字を許され、お徳の鼓に合わせて大頭の舞を披露する又平。
この後、銀杏の前救出のため出立する。

お徳、又平(原画)

あらすじ

「傾城反魂香(けいせい はんごんこう)」より「土佐将監閑居(とさのしょうげんかんきょ)の場」 近松門左衛門作

主な登場人物と簡単な説明

・浮世又平(うきよまたへい)
将監の弟子。土産用の大津絵を描いている。
誠実な人柄だが、生まれながら吃音の障害がある。

・お徳(おとく)
又平の女房。しっかり者で夫思いの世話女房。

・土佐将監光信(とさのしょうげんみつのぶ)
帝の怒りをかい、山科の里に蟄居している絵師。
娘は敦賀で傾城遠山として暮らしている。

・北の方(きたのかた)
佐将監光信の奥方。

・修理之助(しゅりのすけ)
土佐将監の弟子で、又平の弟弟子。

・狩野雅楽之助(かのううたのすけ)
狩野元信の弟子。
元信が仕える大名の娘・銀杏の前を助けようとしている。

あらすじ

これまでの経緯
「近江国高嶋館の場」「館外竹薮の場」
絵師・狩野四郎二郎元信は「武隅の松」を描いて、近江の大名のお抱え絵師となる。
大名の娘・銀杏の前は元信に思いを寄せている。
それを妬む重臣や旧来の絵師らが共謀して、銀杏の前と元信を謀反の罪で捕まえる。
元信は自らの肩を食い破って口に血を含み、ふすま戸に血を吹きかけて口で虎を描く。
すると虎の絵は形を現わし、元信の縛めを噛み切り、元信を背に乗せ、逃走する。

元信の弟子・雅楽之助は銀杏の前を助けようとするが、姫と御朱印状を敵に奪われてしまう。

土佐将監閑居の場
山科の里、絵師・土佐将監の家の門外で、虎が出たと近隣の百姓が騒いでいる。
藪の中から現れた虎を見た将監は、元信が描いた虎だと見抜く。
弟子の修理之助は虎退治を願い出て、見事に筆を使って虎を消す。
手柄を認められた修理之助は、土佐の名乗りを許される。

将監の家に、又平が妻のお徳とともにやってくる。
お徳は将監に「夫にも土佐の苗字を許してほしい」と頼むが、手柄もあげていないのに苗字はやれないと断られる。

そこへ重傷をおった雅楽之助が、師匠元信が襲われ行方知れず、銀杏の前も連れ去られたと告げ、援助を頼んで立ち去る。
又平はここぞとばかりに志願するが、将監は修理之助に救援にむかわせる。
武功ではなく絵で手柄を立てよと又平を叱りつけた将監は家に引っ込んでしまう。

絶望した又平は死のうと決意し、死ぬ前に手水鉢に自画像を描き残す。
思いを込めて描いた絵は、不思議なことに手水鉢の石を突き抜け、裏側に現れた。
この奇跡に感銘をうけた将監は、又平に土佐光起の名を与え、姫君の救出を命じる。
北の方は紋付袴羽織と大小の刀を又平に与える。

又平の口上を心配する将監に、お徳は節があれば又平はしゃべることができるのだと話す。
又平はお徳の打つ鼓で舞を舞って謡う。
将監夫婦に見送られ、又平夫婦は意気揚々と銀杏の前救出へ向かうのだった。

私のツボ

お徳と北の方

”愛嬌があって誠実な又平”というのは基本形ですが、芸術家の苦悩と哀切の割合が演じる俳優さんによって異なるので興味深いです。
神経質な芸術家タイプから腕の立つ職人タイプまでさまざまです。

又平をめぐる人々はさほど変化はありません。
変化がないのはもちろん良い意味で、主役の受け皿ですから基本ポジションは変わりません。
中でも女性陣、と言っても二人ですが、この二人がとても存在感があります。
お徳は明るくて、夫想いで、しっかり者で、とにかく可愛い世話女房です。

一方、北の方はお徳ほど動いたり喋ったりしませんが、滋味溢れる上品な佇まいです。
北の方の存在のおかげで、厳しい将監の発言や態度も師ゆえの愛なのだろうと思わせます。
あのような穏やかな奥方がいるのだから、将監も善人に違いなかろう、と。

二人とも半歩下がって夫を立てるタイプの妻ですが、彼女たちがいてこその又平であり、将監なのだろうと思います。
二代目吉之丞さんの北の方がとても素敵で、強く印象に残っています。本当に素晴らしかった。

又平・お徳の夫婦愛がなしえた奇蹟。
将監・北の方の夫婦愛は全面には出てきませんが、じわっと優しく又平夫妻を包み込みます。

というわけで、二組の夫婦を描くことにしたのですが、構図を考えるうちにあれこれ欲が出てきてしまい、結局、欲張り構図となりました。
虎と、虎に怯える近隣の住民たちも描けたので満足です。

コメント