KNPC173俊寛(しゅんかん)

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤枠左上
俊寛(しゅんかん)

赤丸枠上
瀬尾太郎兼康(せのおのたろうかねやす)

赤枠右下
(左から)丹左衛門尉基康(たんざえもんのじょうもとやす)、丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)、千鳥(ちどり)、平判官康頼(へいはんがんやすより)


俊寛(しゅんかん)

絵の解説

原画(修正前)

赤枠上:俊寛(しゅんかん)
夕餉のワカメを手にしている。
ぼろぼろの衣装は、高価な錦や緞子をつぎはぎにしたもので、かつて高貴な身分だったことを物語ります。

赤丸枠上:瀬尾太郎兼康(せのおのたろうかねやす)
赤っつらの意地悪な上使。

赤枠下:(左から)丹左衛門尉基康(たんざえもんのじょうもとやす)、丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)、千鳥(ちどり)、平判官康頼(へいはんがんやすより)
丹左衛門は瀬尾とは対照的な白塗りに浅葱色の衣装。この衣装の役柄は、たいてい善人です。
千鳥の衣装の緑色(革色)は、村娘よりもさらに田舎の娘を表す色。
『妹背山婦女庭訓』のお三輪なども同じ色。

背景:
崖の突端から船を見送る俊寛。
見送るという表現が正しいのかは分かりません。
岩の上の松と、岩に絡まる赤い蔦、海の波が美しく奥行きのある場面。
船から見た瞬間の姿。

あらすじ

本外題 平家女護島(へいけにょごがしま)
作 近松門左衛門

主な登場人物と簡単な説明

・俊寛(しゅんかん)
法勝寺(ほっしょうじ)の高僧。後白河法皇の側近の一人。
平清盛への謀反を企てた罪で丹波少将成経、平判官康頼とともに鬼界ヶ島に流された。

・丹波少将成経(たんばのしょうしょうなりつね)
謀反の首謀者だった藤原成親(ふじわらのなりちか)の子。
島の娘・千鳥と恋仲になり、俊寛のはからいで祝言をあげて夫婦となる。

・平判官康頼(へいはんがんやすより)
検非違使。謀反の謀議に参加していた罪で鬼界ヶ島に流罪。

・瀬尾太郎兼頼(せのおのたろうかねやす)
清盛から成経、康頼への恩赦を伝えに来た上使。冷酷非情な役人。

・丹左衛門尉基康(たんさえもんのじょうもとやす)
俊寛の赦免を伝えに来た上使。
瀬尾とは別の使者で、善人。

・千鳥(ちどり)
島の娘。成経と夫婦の契りを結ぶ。

あらすじ

平清盛の治世、
平家討伐の陰謀に加担した俊寛、成経、康頼は鬼界ケ島(きかいがしま)に流刑になる。

島で暮らして早や三年。
島民の千鳥と成経が恋仲になり、夫婦の盃を交わす。
俊寛はささやかな宴を開き、千鳥は俊寛を父、康頼を兄として家族四人で仲良く暮らそうと誓い合う。

ある日、赦免船(しゃめんふね)がやって来る。
使者の瀬尾太郎が読み上げる赦免状に俊寛の名前は無く、嘆く俊寛。
そこへもう一人の使者の基康が登場し、俊寛は九州まで連れ帰るという赦免状を読み上げる。

三人は喜んで千鳥と一緒に船に乗ろうとするが、瀬尾は千鳥の乗船を拒む。
さらに俊寛には、都にいる俊寛の妻が清盛に首を刎ねられたと憎々しげに伝える。

成経と一緒に都に行けないと絶望した千鳥は自殺をはかる。
それを見た俊寛は瀬尾に懇願するが、瀬尾は聞く耳を持たない。
ついに俊寛は瀬尾の刀を奪って切りつけ、瀬尾を討ち果たす。

俊寛は上使を斬った罪で島に残る代わりに、千鳥を船に乗せるよう丹左衛門に頼む。

赦免船は俊寛を残して出船。
一人残された俊寛は岩の上に這い上がり、遠ざかる船の行方を追うのだった。

私のツボ

俊寛の視線の先にあるもの

「思い切っても凡夫心」
セリフではなく浄瑠璃の文句ですが、俊寛といえばこの言葉。
この浄瑠璃の合間合間に、俊寛の「おーい」という叫び声が入ります。

幕切まで時間が長く、俊寛をつとめる俳優の芸のしどころです。
好きな演目なので、俊寛が上演されるときはほぼ必ず見に行きます。
俊寛に限ったことではありませんが、演じる人によって味わいが全く異なるのが興味深く面白いです。
私が今まで観たうち印象に残っている俊寛は下記の通り。

後悔と恐怖に駆られる人間くさい俊寛。
孤独の悲哀に満ちた俊寛。
毅然と己が運命と対峙しようとする俊寛。
悟りの境地へと到達したかのように、微かな笑みを浮かべる俊寛。

好みはそれぞれですが、私は俊寛といえば二代目吉右衛門さん。
一番数多く観ていると言うのもありますが、最後の表情が穏やかで、そこに救われます。
細やかな感情の機微が、悲劇ではありますが、一条の救いの光を感じさせてくれます。
瀬尾を弔い、婦人を偲び、命尽きるまで静かに島で暮らしたであろうと “その後の俊寛”まで想起させます。
絶望と怒りと悲しみを自分が救った命への希望へと昇華させたのは、俊寛なりの自己防衛だったのかもしれません。

とはいえ、それは私の俊寛観なので表情が見えない引き構図で描きました。

サザエの烏帽子

見事な白髪に乗っかる謎の黒い物体。
これがなんなのか、初めて観た時から長らく気になっていました。
「寺子屋」の春藤玄蕃の頭上にも乗っています。
おそらく身分の高い役人が身に着けるものなのですが、どの資料を当たっても記載されていません。
これはもう現場に聞くしかないと東京鴨治床山株式会社さんに電話で問い合わせました。
ご存じ、歌舞伎や日本舞踊の鬘の結髪をする会社です。

なんと結髪の職人さんに電話を繋いでくださり、長年の疑問が解けました。
職人さん曰く、「サザエの烏帽子」と言うそうです。
ただ、あくまで裏方での通称なので正式名称かどうかは分からないとのことでした。

そう言われてみると、サザエに見えてきます。
おしゃれでサザエ型にしたのでしょうか、こだわりの烏帽子なのかもしれません。
となると端敵の瀬尾といい春藤玄蕃といい、その人間性が垣間見られるようで好感度がやや上がりました。

コメント