KNPC116 花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)~十六夜清心(いざよいせいしん)

かぶきねこづくし

描かれている人物

(左から)十六夜、清心
赤枠:(左から)寺小姓恋塚求女、船頭三次、俳諧師白蓮

絵の解説

稲瀬川のほとり、心中する二人。
鳩羽色(はとばいろ)の着付が美しい清心。
十六夜は世話傾城(せわけいせい)の衣装。
胴抜(どうぬき)に白献上の博多帯を前挟みに結んでいます。
胴抜:胴と袖半分に別布を縫い合わせた留袖着付。胴と袖部分は緋縮緬の小紋。
〽これがこの世の別れかと互いに抱き、月影もおぼろに霞む雨催(あまもよ)い

原画

「こりゃどうしたら、よかろうなあ」寒さで具合が悪くなった求女。

「もし、出ますよ」粋な船頭三次。

「悪くねぇなぁ」助けた十六夜にもたれかかられニヤける白蓮。
着ている厚司から分かるように裕福な風流人です。

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・清心(せいしん)
鎌倉極楽寺の僧。遊女十六夜と深い仲になり、女犯の罪で追放される。

・十六夜(いざよい)
大磯の遊女。清心の子供を身籠もっている。

・俳諧師白蓮(はいかいしはくれん)
鎌倉雪ノ下で暮らす裕福な俳諧の師匠。

・恋塚求女(こいづかもとめ)
十六夜の弟。

あらすじ

外題『小袖曽我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)』河竹黙阿弥作
前半
極楽寺の所化(しょけ)清心は、遊女十六夜と恋仲になり、寺を追放されます。
稲瀬川で十六夜と出会い、二人は手を取り合って川へ身投げします。
十六夜は俳諧師の白蓮が乗る白魚船に助けられ、身請けする約束をします。
一方、清心も死にきれず、十六夜と腹の子に心を痛めます。
そこへやってきた寺小姓・求女を十六夜の弟と知らずにはずみで殺害してしまい、金五十両を奪います。
うろたえる清心ですが「しかし待てよ(中略)一人殺すも千人殺すも、取られる首はたった一つ」と悪に目覚めるのでした。

この後、船から上がった白蓮・三次・十六夜と、清心が闇の中で行き交う”だんまり”で幕。
ーーーここまでの上演が多いですーーー

後半
白蓮に請け出された十六夜は、発心して清心の菩提を弔うため巡礼の旅に出ます。
箱根の山中で偶然再会した十六夜と清心。
二人は夫婦となって、鬼薊清吉(おにあざみせいきち)おさよ(十六夜の本名)と名乗り、白蓮をゆすりに来ます。
白蓮が差し出した百両には極楽寺の封印。
白蓮は大泥棒の大寺庄兵衛で、極楽寺から三千両を盗んだ犯人だったのでした。
しかし、すでに白蓮もお上に目をつけられており、追手が迫る中、三人は逃げてゆくのでした。

後半が上演される場合はここまでです。
大詰は清吉おさよの二人は自害、白蓮は捕手に捕まります。

私のツボ

「今夜のことを知っているのはお月様と俺一人」

悪の道へ入る直前の清心の独り言。
雲に隠れていた月が出て、月明かりが悪の道を照らしたのかもしれません。

何かが起こる前、歌舞伎ではだいたい美しい月が出ます。
「三人吉三」、「修禅寺物語」、「頼朝の死」
心中と月といえば「鳥辺山心中」。

月は破滅(死)を象徴するのでしょうか。

鬼薊清吉

後半の鬼薊清吉おさよは、土手のお六と鬼門の喜兵衛ばりの変貌ぶりです。
一文字違いの清玄とは違い、こちらの清心は心機一転新しい人生を生きています。
たくましいです。
黙阿弥が描く人物は、その善悪はさておき生命力が強い人間が多いと思います。
私は映像でしか見たことがありませんので、ぜひ通し狂言で上演して欲しい演目の一つです。

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