描かれている人物
(左から)四天王、義経、弁慶、冨樫、番卒、太刀持音若
背中を見せて座っているのは後見
絵の解説
勧進帳の読み上げー”天地人の見得”
覗こうとする冨樫、巻物を隠す弁慶、傘を深く被る義経
描いているのは「勧進帳」の舞台の様子ですが、「勧進帳」が演じられている「松羽目物」の舞台の様子がを描きたくてこの構図になりました。
「勧進帳」の世界というより、「勧進帳」の舞台です。
舞台上の人物が小さくなってしまいますが、後見から長唄まで含めて登場人物と言えましょう。
特に描きたかったのは右端の刀持音若。男たちのドラマをほんのりと和らげる前髪の美少年。
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・源義経(みなもとのよしつね)
源頼朝の異母弟。平家討伐に大きな功績があったが、頼朝に疎まれいったん九州に落ち延び、今は奥州の藤原秀衡(ふじわらのひでひら)を頼って移動している。
・武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)
源義経の一番の家来。
・富樫左衛門(とがしざえもん)
加賀の国の豪族で、義経一行を捕らえるために設けられた「安宅の関(あたかのせき)」の関守。義経主従を捕える命令を受けている。
他、義経の四天王(亀井六郎、片岡八郎、駿河次郎、常陸坊海尊)、刀持音若、番卒などがいます。
あらすじ
兄の源頼朝に疎まれ、奥州へと逃れる源義経と家来武蔵坊弁慶一行。
武蔵坊弁慶たちは山伏姿、源義経は強力に変装し、東大寺再建の寄付集めの名目で安宅の関を突破しようとしますが、関守の富樫左衛門に怪しまれ、詮議を受けます。
本物の山伏か怪しむ冨樫。
弁慶は勧進帳を読み上げ、山伏問答もこなします。
番卒に強力が義経に似ていると指摘され、弁慶は義経を打ち据えます。
その姿に胸を打たれた冨樫は関所を通る許可を与え、一旦立ち去ります。
主君を打ち叩いた罪に涙する弁慶を義経は慰めます。
関を去った一行を、冨樫が追いかけてきて酒を勧めます。
酔った弁慶は延年の舞を舞い、義経と家来たちを先に行かせます。
そして自分も飛び六方で花道を引っ込みます。
私のツボ
天地人の見得(一等席からの眺め)
「勧進帳」では弁慶の見得が多々あります。
”天地人の見得”だけ、義経、弁慶、冨樫の三人でします。
カードの原画は三階席からの眺めです。次は、一階席または二階席からの視点で描いた絵です。
舞台では義経はもう少し離れています。
この原画では、弁慶が手にしている巻物は内側の白を観客側に見せます。成田屋さんの場合は、巻物の背中を見せます。
絵本であれなんであれ、成田屋さんの芸は描いてはいけないとのお達しがあります。
三階席からの眺め
歌舞伎を見始めた頃はとにかく色々見たくて幕見席と三階席がほとんどでした。今もほとんど三階席ですが。
舞台が遠いので、表情などの細かいところはよく見えませんが、全体が見渡せるので結構好きです。
「勧進帳」に限らず、松羽目物は舞台全体で見る方がより美しく感じられます。
もちろん間近で見るのも素晴らしいのですが、どうしても贔屓ばかりに目がいってしまいます。
それはさておき、
左手に五色の揚幕、右手に臆病口、中央に松の絵、右手と左手の壁には竹の絵。
松の絵の前には長唄が並びます。
これは舞台演出としてはかなりアヴァンギャルドではないかと思います。
能から来ているので簡素なのは当然ですが、歌舞伎の華やかさがそこに加わって非常に美しい舞台美術になっていると常々感じております。
というわけで、松羽目物の舞台で繰り広げられる「勧進帳」を描きたくて、このような構図になりました。
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