KNPC197「神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」より「頓兵衛住家(とんべえすみか)」

かぶきねこづくし

描かれている人物

枠右上:お舟(ふね)、新田義峰(にったよしみね)
枠左中央:お舟

背景:六郷川

絵の解説

義峰に言い寄るお舟。
不思議な力によって(義興の形見の旗の霊力)二人は結ばれませんが、義峰はお舟に一瞬よろめいてだきあってしまったのも事実。
お舟が尻尾を義峰の肘にそっと乗せているのが誘惑のポイントです。

お舟、義峰(原画)

柱巻きのお舟。
まだこの演目を見ていないどころか知らなかった頃、
二代目澤村藤十郎さんのお舟の写真を見て、あまりの美しさに驚きました。
たった一枚の写真が鮮烈な印象を残し、あれこれ調べ上げた演目です。

お舟(修正前)、頓兵衞(原画)

背景の六郷川は行方不明です。
そこそこ大きい絵ですが、どこに紛れ込んだやら…。

あらすじ

「神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」全五段の四段目
福内鬼外(ふくうちきがい 平賀源内のペンネーム) 作

主な登場人物と簡単な説明

・お舟(おふね)
頓兵衛の娘。純真無垢な町娘。

・新田義峰(にったよしみね)
新田義興(よしおき)の弟。足利の詮議から逃れるため、潜伏していた生麦村から恋人の臺(うてな)と共に逃げている。義興の形見の旗を持っている。

・渡し守の頓兵衛(とんべえ)
褒美の金欲しさに足利方の手先となり、新田義興を溺死させた強欲者。

・臺(うてな)
義峰の恋人の傾城(けいせい)

・六蔵(ろくぞう)
頓兵衞の子分。お舟に惚れている。

あらすじ

新田義貞の息子、義興(よしおき)は足利尊氏討伐の途上、足利方へ裏切った矢口の渡しの船頭、頓兵衞(とんべえ)の計略で溺死します。

義興の弟義峰は、恋人の臺(うてな)を連れ、偶然にも頓兵衞に一夜の宿を求めます。

お舟は義峰に一目惚れしてしまいます。
頓兵衞が帰宅する前に義峰たちを逃がすお舟。
六蔵の注進を受けた頓兵衞は、誤ってお舟を刺してしまいます。

瀕死の娘の説得にも応じない強欲な頓兵衞は、狼煙をあげて義峰を追います。
お舟は二人を逃がすため、太鼓を叩きます。

川へ出た頓兵衞の前に義興の亡霊が現れ、新田家の重宝の矢が頓兵衞の胸に突き刺さります。
頓兵衛はしきりに苦しみ、お舟は安堵の笑みをもらしながら息絶えるのでした。

私のツボ

頓兵衞の髪型

蛸足があしらわれた綿入りの派手な着物に、赤銅色の肌に白髪が眩しい頓兵衞。
どこまでも強欲で、おまけに怒りっぽいです。

頓兵衞のような髪型は歌舞伎でちょくちょく見かけますが、名前がわからず気になっていました。
どの資料を当たっても書かれておらず、思いあまって東京鴨治床山株式会社さんに電話で聞いてしまいました。
「正式名称はわかりませんがクセつきと呼んでいます」と職人さんが丁寧に教えてくださいました。
役柄ごとに「〜のクセつき」と呼ぶそうで、「頓兵衞のクセつき、角丸銀杏切りの髷」と呼ぶそうです。
俊寛の瀬尾太郎なら「瀬尾のクセつき」です。

修正箇所〜表情について

「お舟が眠っているように見える。もっと悲しそうな表情に変更してください。」と指摘が入ったので描き直しました。

お舟(原画)

歌舞伎の絵を描くとき、役柄の表情はあまり細かく描きすぎないようにしていました。
私の解釈を押しつけたくない、見る人が感情移入できる余地を残しておきたい、など色々理由はありますが、そもそも猫なので繊細な表情をつけにくいですし、やりすぎると珍妙な絵になるからです。
それに状況や身振りなどで状況はある程度わかりますし、最大公約数の表情にしていました。

でも、まぁもう少し情感があっても良いかもしれない、と思って描き直しました。
「Noと言わない日本人」なので、指摘されたらよほどのことがない限りは修正します。
これ以降、少し表情をつけるようにしました。

コメント