描かれている人物
赤枠上:(左から)北条時政、信楽太郎、伊吹藤太
赤枠下:(左から)和田兵衛秀盛、早瀬、篝火
下:(左から)佐々木盛綱、篝火、小四郎、早瀬、微妙
絵の解説
舞台での時政の立派な白い髭を意識したんだろうと思いますが、もはや猫かどうか分からなくなっています。ペルシャ猫だと思います。
赤っつらの和田兵衛は立場的には敵ですが、話のわかる男です。
足軽風に変装した篝火が格好良いです。いきなり乗り込まず、矢文を放つところがまた素敵です。
綸子の着付の早瀬。打掛も織物で、凛々しい武家の妻といった佇まいです。
切腹した小四郎を誉める盛綱、泣き崩れる篝火たち。
上手に紅葉、下手に松。
家紋の四つ目が鮮やかな青で描かれた銀の襖、その奥の琵琶湖。
熊谷陣屋では桜で、盛綱陣屋は紅葉。
その違いが印象的で絵にしました。
あらすじ
「近江源氏先陣館」の八段目 近松半二、三好松洛らの合作
主な登場人物と簡単な説明
・佐々木三郎兵衛盛綱(ささきさぶろうひょうえもりつな)
北条時政を中心とした鎌倉方の武将。
源頼家を中心とした京方についた弟の高綱と対立している。
・微妙 (みみょう)
佐々木盛綱と高綱兄弟の母。
*「菅原伝授手習鑑」の覚寿、「本朝廿四孝」の越路とあわせて三婆(さんばば)と呼ばれる老女の大役。
・和田兵衛秀盛(わだびょうえひでもり)
京方の武将。
・篝火(かがりび)
高綱の妻で、小四郎の母。
・早瀬(はやせ)
佐々木盛綱の妻。
・信楽太郎(しがらきたろう)、伊吹藤太(いぶきのとうた)
戦況を報告する注進(ちゅうしん)。
あらすじ
近江坂本にある盛綱陣屋。
盛綱の息子小三郎が、高綱の息子小四郎を捕らえる手柄をあげます。
盛綱は熟慮の末、母の微妙に対し、小四郎に切腹させてほしいと頼みます。
高綱は敵とはいえ同じ佐々木家。
息子への情に迷って家名を汚しはせぬかと気にかけてのことです。
小四郎の母、篝火が陣屋に忍んできます。
高綱討ち死にの知らせが入り、北条時政が首実検にやってきます。
盛綱が首桶のふたを取るや否や、「とと様」と叫んで小四郎が自ら刀を腹に突き立てます。
しかし、首は明らかに偽首。
盛綱は弟高綱の策略を悟り、父のために命をかけた小四郎を思って「高綱の首にまちがいなし」と言い切ります。
時政は鎧櫃(よろいびつ)をほうびとして与え、帰って行きます。
盛綱は篝火を呼び、瀕死の小四郎と対面させ、責任を取って切腹しようとします。
そこへ和田兵衛が現れ、今ここで死んでは小四郎の死が無駄になると説得します。
盛綱は思いとどまり、和田兵衛と戦場での再会を約束するのでした。
私のツボ
伊吹藤太
張り詰めた物語の中で、一服の清涼剤。
「仮名手本忠臣蔵」の鷺坂伴内、「義経千本桜」の逸見藤太の系統です。
この演目では敵ではなく味方ですが、衣装は逸見藤太と似ています。
「どりゃ、どりゃ、どりゃどりゃどりゃ」と賑やかに花道を引っ込みます。
コロコロした体型がお茶目で可愛いらしい。
信楽太郎の引き立て役ですが、藤太ファンの私としてはお互いが引き立て合っていると思っています。
舞踊に出てくる初化と並ぶ、大好きな役どころです。
矢文
篝火が放った矢文は紅葉の幹に、早瀬の返歌は下手の松の木に刺さります。
もちろんバネ仕掛けで矢が立つのですが、その動きがさらに緊張感を高め、印象に残っています。
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