AKPC96 「奥殿〜一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」

もうひとつ

描かれている人物

赤枠上:(左から)お京、常盤御前、鬼次郎
同 右:八剣勘解由
同 下:大蔵卿

絵の解説

大蔵卿のぶっかえり

楊弓遊びにふける常盤御前を諌めるお京と鬼次郎

鬼次郎を斬ろうとする勘解由

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・一條大蔵長成(いちじょうおおくらながなり)
毎日遊び呆けてばかり、都一の阿呆と噂の公家。
源氏の血統なので源氏再興に心を寄せているが、阿呆のふりをして平家の目をかいくぐっている。

・常盤御前(ときわごぜん)
義朝の愛妾だったが、義朝が討たれた後は清盛の側室となり、大蔵卿に下げ渡される。
牛若丸の母。
毎晩、楊弓に興じている。

・吉岡鬼次郎幸胤(よしおかきじろうさちたね)
源氏の忠臣。
鬼一法眼の弟で、奴知恵内実は鬼三太の兄(『菊畑』)。

・お京(おきょう)
鬼次郎の妻。弁慶の姉。

・八剣勘解由(やつるぎかげゆ)
平家のスパイ。忠義より金。

あらすじ

奥殿
大蔵卿の館に潜入したお京は、夜更けに鬼次郎を忍び込ませる。
常盤御前の部屋に忍んで行くと、噂通り楊弓に夢中になっている。
弓を取り上げて責め立てる鬼次郎夫妻。
だが、常盤は清盛の姿絵を弓で射ることで平家調伏を行なっていたのだった。
真意を知って常盤に詫びる夫妻だが、その話を盗み聞いた勘解由が平家に知らせようとする。

すると、勘解由は御簾の影から何者かから斬りつけられる。
御簾が上がると、大蔵卿が毅然とした様子で現れ、作り阿呆だったことを明かす。
自分の本心を頼朝たちに伝えてほしいと和歌が書かれた鬼次郎に短冊を渡す。

咲きそめし 花より外(ほか)には 松はなし阿呆(あほう)大蔵 ながき春日(はるひ)を
大意:時を待て、大蔵は心を源氏に寄せている

夫の不忠を恥じた鳴瀬は自害する。
「死んでも褒美の金が欲しい」と言う勘解由を討った大蔵卿は、源氏の重宝友切丸を鬼次郎に託し、再び作り阿呆に戻るのだった。

私のツボ

大蔵卿の衣装

一條大蔵卿といえば、真の姿を見せるぶっかえりの場面です。
衣装が2種類あり、
一つは朱と白の市松模様の地の上に秋の七草の刺繍。
もう一つは白地に鳳凰と菊と雲の刺繍。
袴はどちらも鶯色です。

以前(といってもずいぶん昔ですが)、描いた衣装は朱と白の市松模様。
市松模様と白と、衣装の違いの理由は分かりません。
私が観た舞台も市松模様が多く、一昔前は市松模様が多かったような気がします。
家の違いによるのかなと思っていたのですが、吉右衛門さんが市松模様と白バージョンとどちらも着ていらしたので、これはその時々の都合だろうと結論づけました。
衣装の手配はもちろん、演者の気分などもあることでしょう。
どちらも華やかで美しい。
市松模様は前回描いたので、今回は白バージョンにしました。

市松模様の大蔵卿
KNPC52 一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)

四代目片岡亀蔵さんの勘解由

べりべりした口調で、赤っつらの憎たらしい奴。
悪党集団のボスでもなければ、使いっ走りの三下でもない。
虎の威を借りつつも、中間管理職としての苦労も垣間見えるようなかたき役。
「俊寛」の瀬尾、「寺子屋」の春藤玄蕃などなど。
歌舞伎の中でも好きな役どころです。
てりてりした赤っつらが憎たらしいけれど、どこか憎めない。
亀蔵さん演じた赤っつらの中でも私が一番好きだったのが勘解由です。
べりべり感に欠かせない野太い声はもちろん、お金に執着する勘解由の人間くささというか、おかしさが絶妙な匙加減でした。
勘解由も根は悪いやつではないのだろう、いろいろ大変なんだろうなと思わせる、良い意味での隙がある。
この人間味が亀蔵さんのニンだったように思います。

早すぎるお別れが未だ信じられず、配役を見るにつけ、あぁそうか亀蔵さんじゃないんだと寂しさが募ります。
たくさんの素晴らしい舞台をありがとうございました。

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