
描かれている人物
左:(左から)大蔵卿、仕丁
赤枠上:(左から)鬼次郎、お京
同 中:鳴瀬
同 下:茶亭与市
絵の解説
花道の引っ込み

茶屋の前にて、茶屋の主人

鳴瀬

あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・一條大蔵長成(いちじょうおおくらながなり)
毎日遊び呆けてばかり、都一の阿呆と噂の公家。
・常盤御前(ときわごぜん)
義朝の愛妾だったが、義朝が討たれた後は清盛の側室となり、大蔵卿に下げ渡される。
牛若丸の母。
毎晩、楊弓に興じている。
・吉岡鬼次郎幸胤(よしおかきじろうさちたね)
源氏の忠臣。
鬼一法眼の弟で、奴知恵内実は鬼三太の兄(『菊畑』)。
・お京(おきょう)
鬼次郎の妻。弁慶の姉。
・鳴瀬(なるせ)
局。家老八剣勘解由の妻。
あらすじ
檜垣
平清盛が栄耀栄華を誇る世、清盛の愛妾だった常盤御前は一條大蔵卿に嫁いでいます。
大蔵卿は毎日遊んでばかりで都中で阿呆と噂されていた。
ある日、御所で能が催されているところへ、門前の檜垣茶屋に吉岡鬼次郎と妻のお京がやってきて大蔵卿が現れるのを待っていた。
源氏再興を願う二人は大蔵卿と常盤御前の本心を確かめに来たのだった。
大蔵卿一行が登場すると、局鳴瀬の取り計らいでお京は舞を披露する。
大蔵卿にいたく気に入られたお京は女狂言師として召し抱えられる。
私のツボ
なにごころなし
『一條大蔵譚』より「檜垣」の場。
大蔵卿の衣装がとても好きなので、「檜垣」「奥殿」と描き分けました。
薄紫の叢雲と秋草がとても上品な衣装。
なんといっても大蔵卿の柔らかみが見どころで、役者によって微妙に味わいが違うのも楽しいです。
”阿呆”を強調しすぎると下品なのはもちろんですが、”笑わそうとしている”のが透けて見えると白けてしまう。
あくまで上品に、ふわふわ〜、ホワホワ〜とした柔らかい空気、なにごころ無い(無邪気な)雰囲気が欲しい。
この辺りの匙加減は『松浦の太鼓』の松浦公とやや通じるものがあるように思います。
その大蔵卿の可愛らしさを引き立てるのが、鬼次郎お京夫妻の武家らしいキリリとした佇まい、鳴瀬の安定感、そして箸休めに茶亭与市と、とてもバランスの良い布陣となっています。
人の良さそうな鳴瀬や茶亭与市が実は悪人だった、というようなどんでん返しもありません。
そのような意味では、阿呆の大蔵卿をあたたかく見守る人たちというごく平和な場面になります。
お茶目な大蔵卿の場面は多々ありますが、一番好きな床几の端に座って傾く場面は以前に描いたので、花道の引っ込みを描きました。
花道の七三で、大蔵卿が腰元たちを一人一人を目で追った後、鬼次郎と目が合います。
ここで一瞬本性を見せる役者もいれば、見せない役者もいて、それぞれの演じ方の違いを見るのが楽しいところです。
長谷川千四合作の時代浄瑠璃「鬼一法眼三略巻」(きいちほうげんさんりゃくのまき)の四段目の切にあたります。

コメント