SNPC78 菊祭

四季ねこねこ

絵の解説

菊花の香る菊まつり。

菊人形は義経と源九郎狐と静御前。
「此花開いて後更に花なしと思へば とりわけ色香の身にぞ沁む」
と菊の花を愛でたのは『鬼一法眼三略巻』の鬼一法眼。
晩秋を彩る菊の花。

菊人形

子供の頃の遠い記憶の不思議なイベント筆頭が菊人形展。
犬山モンキーパークや名古屋城公園の一角で開催されていて、
何回か家族で行った記憶があります。
会場に入ると、水っぽい薬草のような菊の花の独特の匂いが妙に生々しく、
等身大の人形に正気が宿るような不思議な空間でした。
なぜ衣装を菊にするのか、と身も蓋もないことを思ってしまい、
菊細工の美しさよりも、不気味さが勝ってしまうイベントでした。

江戸川乱歩の「吸血鬼」中盤に、
両国国技館で開催中の菊人形展を舞台にさまざまなトリックが繰り広げられます。
ずいぶん広い会場で、『義経千本桜』の舞台と、『桜姫東文章』の舞台が菊人形で再現され、
怪人(唇のない男)が清玄に化け、文代さん(明智探偵の助手&恋人)が桜姫に化けさせられ、
というようなシーン。

菊人形の様々の場面が、美しいというよりは、寧ろ不気味な、グロテスクな感じで、並んでいた。
そして、むせ返る菊の薫りだ。
(中略)
薫る菊花、そして、無数の生人形だ。
江戸川乱歩「吸血鬼」より

この小説、
タイトルの吸血鬼は出てこないしトリックも割と行き当たりばったりの展開で、
支離滅裂が冴え渡る物語です。もちろん褒めています。
この菊人形のくだりの描写が鮮烈で、怪奇めいていて、
子供の頃の菊人形展の記憶とオーバーラップして大変印象に残っています。

理解できないものに対峙したときの、呆然とした感覚。
なんだかよく分からないけど圧倒される感覚。

”不思議なよく分からないもの”は大切にしていきたいなと思う今日この頃でした。

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