「旅噂岡崎猫」〜「怪談 かぶきがわかるさがしもの絵本2 」より

絵本

絵の解説

見開きページ(原画)
725mm x 500mm 紙
『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』

『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』原画

「旅噂岡崎猫」に該当する部分。
いたぶられるおくら、
宙を舞う猫の怪、
それを見上げる民部之助と、
囃し立てる猫の怪の手下猫たち

原画(部分)

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・おさん実は猫の怪
無量寺に住む怪しい老婆。
病死したお袖の母に似ている。

・由井民部之助(ゆいみんぶのすけ)
お袖の夫。
義父の仇討ちのため、お袖と幼子を連れて旅をしている。

・お袖(おそで)
民部之助の妻。幼子を連れている。
由留木家の忠臣・与惣兵衛の娘で、
お家騒動に巻き込まれ父が殺害される。

・おくら
在所の娘。

あらすじ

概要
『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』の「岡崎・無量寺の場」通称「岡崎の猫」
四世鶴屋南北作
南北一流のつぎはぎ書替狂言。
丹波の国、由留木家でお家騒動が勃発。
二つの家宝を巡り、敵と味方が入り乱れての道中記。

「旅噂岡崎猫」
*演出によって異なる場合があります。
「怪談 かぶきがわかるさがしもの絵本2 」に基づきます。

東海道・岡崎宿の外れ。
民部之助・お袖夫婦は土地の娘・おくらに一夜の宿を頼み、
無量寺に案内される。
寺に住む怪しげな老婆は、お袖の亡き母に瓜二つ。
蘇ったと初孫を見て喜ぶが、実は化け猫の化身。

夜更け、おさんが魚油を舐めているところを、おくらに見られてしまう。
正体がバレた猫の怪はおくらをいたぶり、お袖と幼子も殺してしまう。
民部之助と猫の怪の大立ち回り。

猫の怪は十二単衣を着て空のかなたへ逃げ去る。
または、決着がつかず睨み合いで幕。

※化け猫がお袖らを襲う理由は演出によって異なります。
「獨道中五十三驛」の場合は、由留木家に住処を追われた野良猫の恨み。
「旅噂岡崎猫」は古寺に棲みつく妖怪猫、
侍に襲われて命を落とした野良猫の祟りなどがあります。

私のツボ

江戸時代の油事情

「旅噂岡崎猫」通称「岡崎の猫」で有名な場面といえば、
おさんが行燈の魚油を舐めるうち、
うっかり人間に化けるのを忘れて、元の化け猫の姿に戻ってしまう。
障子に映った猫影を見たおくらが腰を抜かす。

江戸時代、あかり用の油は菜種油が一般的でしたが、
イワシの油を原料とした魚油はその半値だったので庶民の間で重宝されました。
安い反面、魚油は燃える時に大量の煙が出るのと、悪臭がするのが難点でした。

行燈の魚油を舐める猫というのは当時よく見られる光景だったようで、
猫にとっては良い栄養源だったのかもしれません。
EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸が豊富な健康食材ともいえます。

「岡崎の猫」は、演出や脚本が変わることが多いのですが、
行燈を舐める場面は必ず入ります。
絵本ではスペースの都合で描きませんでした。

「岡崎の猫」はインパクトのある演出が多く、
個人的にはおくらのアクロバティックな所作、
十二単衣を着たモフモフ猫は外せません。

化け猫と十二単衣

障子に映る猫の影と共に、「岡崎の猫」でもう一つ必ず入る演出が十二単衣を着た猫。
この趣向は、四世南北が三代目菊五郎に何か猫変化(ねこへんげ)ものを書こうと
机に向かったところ、飼猫が十二単衣の官女が檜扇をかざした錦絵を咥えてきたところから生まれたそうです。
(「歌舞伎細見」飯塚友一郎著 第一書房刊 より)

十二単衣を着た妖怪といえば、玉藻前(たまものまえ)こと九尾の狐。
平安時代末期、後鳥羽上皇の寵姫だった妖狐の化身。
四世南北は玉藻前にヒントを得たのでは、と思うのですが、
そんな野暮なことは言いますまい。

錦絵を咥えた猫と、それを見つめる四世南北。
とても絵になる情景です。

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