AKPC41 『伊賀越道中双六』⑦「岡崎」

もうひとつ


赤枠上左:山田幸兵衛
赤枠上右:おつや
赤枠下:唐木政右衛門
背景:(左から)お谷、唐木政右衛門

絵の解説

左:捕手たちをあしらう政右衛門の巧みな柔術に見入る幸兵衛
好々爺の幸兵衛ですが、時折切れ者の表情を見せる。
右:糸車を廻しながら糸繰唄を歌うおつや
〽 来いとゆたとて行かれう道か、道は四十五里波の上…

原画

「必ず死ぬるな」
雪の中、倒れたお谷を抱き寄せて声をかける政右衛門。
身分を隠して幸兵衛の家に逗留しているため、人目を忍んでの束の間の介抱。

原画

雪の中、戸外にお谷が居ることを知りながら、堪えて煙草の葉を刻む政右衛門。
莨切りの場面。

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・和田志津馬(わだしづま)
和田家の嫡男。
父の仇討ちのため、沢井股五郎を探して全国行脚中。
成り行き上、股五郎になりすまして山田幸兵衛の家に逗留する。

・お袖(おそで)
山田幸兵衛の娘。
かつて鎌倉で武家奉公していたときの縁で、沢井股五郎の許嫁となる。
縁談が嫌で実家に帰る。
股五郎とは会ったことはない。
志津馬に一目惚れしている。

・山田幸兵衛(やまだこうべえ)
岡崎宿の関所下役人。
政右衛門(弟子の時の名前は庄太郎)の剣術の師匠。

・唐木政右衛門(からきまさえもん)
関所抜けの咎で捕手から逃れる途上、偶然、
かつて神影流の師匠であった山田幸兵衛の家にたどり着く。
幼名は庄太郎。

・お谷(おたに)
政右衛門の元女房。和田志津馬の実姉。
政右衛門に息子・巳之助をひとめ会わせたいがため、乳飲子を抱えて諸国巡礼となる。
偶然、政右衛門が滞在する山田幸兵衛の家の前を通りかかる。

・おつや
山田幸兵衛の女房

他、蛇の目の眼八(股五郎のスパイ)、提灯の親爺などがいます

あらすじ

岡崎宿の外れ、山田幸兵衛の住処。

和田志津馬は股五郎の情報を探るため、
お袖の許嫁・沢井股五郎になりすまして幸兵衛の住処に逗留する。

捕手に追われた政右衛門が幸兵衛の自宅前に現れ、幸兵衛に助けられる。
幸兵衛は政右衛門の柔術の師匠であったが、
かつての庄太郎が唐木政右衛門であることを知らない。
再会を喜ぶ師弟の二人。
幸兵衛は政右衛門に娘婿・股五郎の助太刀を依頼し、政右衛門は承知する。

その夜、巡礼となったお谷が乳飲み子の巳之助を抱いて通りかかる。
素性が知れては困るため、政右衛門は巳之助だけ助け、お谷を追い払う。

巳之助がつけていた守り袋の中身を見た幸兵衛は、
敵・唐木政右衛門の息子を人質に取れたと喜ぶ。
すかさず政右衛門は巳之助を刺し殺し、庭に放り投げる。

幸兵衛は、政右衛門の目に浮かんだ涙を見逃さず、正体を見破る。
政右衛門と志津馬を引き合わせ、股五郎を中仙道へ逃したと明かす。

お袖は出家、お谷は我が子の姿を見て悲嘆に暮れる。
幸兵衛は、物陰に潜んで一部始終を聞いていた蛇の目の眼八を斬りすて、
仇討ち成就の餞(はなむけ)とする。
絵面の見得で幕。

私のツボ

近松半二の遺作

2014年に国立劇場にて、44年ぶりの上演となって話題となった「岡崎」。
その後、2017年に増補して国立劇場で再演。
戦後、「岡崎」が上演されたのは三回のみ。
我が子を斬り捨てる場面が敬遠される理由であろうことは想像に難くありません。

その場面を含めて物語の解説や考察はさまざまなされておりますので、ここでは割愛します。
どんな考察がなされようと、現代人の感覚からすると「ひどい」の一言に尽きますが、
その時代のズレを味わうことができるのも、古典芸能の面白さだと私は認識しています。

近松半二の遺作となった本作品では観客の涙をしぼる演出がふんだんに盛り込まれています。
雪の中、巡礼姿で幼子を連れたお谷が現れるのは「袖萩祭文」に似ていますし、
お袖が髪をおろすのは「野崎村」と似ています。
どちらも近松半二の作品なので、好きな演出なのでしょう。

なかでも憎いなぁと思うのが、おつやの哀愁漂う糸繰唄。
「袖萩祭文」で袖萩が語る祭文がBGMですが、「岡崎」は糸繰唄。
糸繰唄は佐渡おけさですが、なんともいえない物悲しさと抒情感に満たされます。

この後に待ち受ける悲劇。
嵐の前の静けさという、ある意味ピークの場面ですし、
情景も美しいので「莨切り」の場面を大きく描きました。

BGM担当のおつやだけでは絵が弱いので、幸兵衛も追加。

「岡崎」もですが、
「饅頭娘」での政右衛門のお谷に対する態度もそれは酷いもので、
もちろん訳あってのことですが、観ていて腹立たしくなるのも正直なところです。
これも現代人の素直な感想。

というわけで、
政右衛門がお谷にほんの束の間ですが本心を見せる場面を書き加えました。
短い場面ですが、泣けてしまいます。
この後のひどい展開で涙も引っ込んでしまうのですが、
近松半二の術中に見事はめられる場面。

コメント