AKPC38 『伊賀越道中双六』④「奉書試合」

もうひとつ


赤枠上段:(左から)桜田林左衛門、誉田大内記、唐木政右衛門
赤枠中段:(左から)唐木政右衛門、誉田大内記
赤枠下段:唐木政右衛門

絵の解説

御前試合

原画

素手で大内記の刀を受け止める政右衛門

原画

床の間の奉書を手に、神影流の奥義を伝授する政右衛門

原画

大広間の襖に描かれている槙。

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・唐木政右衛門(からきまさえもん)
剣豪。
誉田家への仕官が決まっていたが、
義弟志津馬の助太刀をするため、わざと御前試合に負ける。

・誉田大内記(こんだだいないき)
大和郡山藩主。善人。

・桜田林左衛門(さくらだりんざえもん)
誉田家の剣術指南。
沢井股五郎の叔父。
腹黒い。

他、宇佐美五右衛門がいます。

あらすじ

大和郡山藩主・誉田大内記の城では、
政右衛門と桜田林左衛門の剣術御前試合が行われている。

政右衛門は仇討ちに参加するため、わざと試合に負ける。
勝ちを譲ったことを見抜いた大内記は、
政右衛門を成敗しようとするが、素手で制止される。

政右衛門は奉書を手に、神影流の奥義を伝授。
大内記は政右衛門に暇を言い渡し、刀を授けて仇討ちを励ます。

そこへ、林左衛門が出奔したとの知らせ。
政右衛門は、股五郎の叔父である林左衛門の行方を追う。

私のツボ

敵味方の対比

分別のある殿様の計らいで、政右衛門の仇討ちの段取りが整います。
斬られる覚悟で御前試合に臨む政右衛門と、
推薦人としての責任を切腹でもって取ろうとする五右衛門。
その覚悟に心動かされた大内記は、むしろ政右衛門の仇討ちを応援します。
筋を通す男たちのドラマ、といったところでしょうか。

一方、桜田林座右衛門は政右衛門がわざと負けたと知らずに威張り散らして
挙句捨て台詞を残して退散、さらに何の挨拶もつけずに出奔と、
政右衛門と対極すぎて、あまりにも分かりやすい役柄です。
仮にも剣術指南だったわけで、よほど本性を隠すのがうまかったのか、
郡山藩は人材不足だったのか勘繰ってしまうようなセコイ役柄です。

政右衛門を筆頭に、政右衛門側ができた人間に対して、
敵役の股五郎チームがわりと小狡い人間が多く、
敵なりの大義があるわけでもない様子。
巨悪とは到底呼べない小物さが、妙なリアリティがあります。

丸本歌舞伎では、正義の側は作者の理想が投影されますが、
敵側は割とリアリティというか卑近な人物描写のように感じられます。

なお、大内記の背後に描いてある家紋は、元は立葵です。
誉田家のモデルは本多家で、家紋は本多葵。
葵の代わりに肉球としました。

真剣白刃取り

政右衛門が大内記の刀を素手で制止する場面があり、
歌舞伎の立廻りでは他に見たことがないので珍しいなと思っていました。
初代中村鴈治郎の芸談によれば、
「奉書試合」では床を抜いたり八双飛びにしたりと随分派手な演出だったようで、
東京だと「やりすぎ」とクレームが来るようで控えめにしているとのことでした。
明治44年の帝国劇場での公演の際の話。
素手で刀を受け止める演出は、その名残なのかもしれません。

後半で本心を明かすところは「饅頭娘」と同じ展開で
「またか」の印象は否めませんので、
政右衛門の派手な立廻りで変化をつけたようにも思えます。

素手で刀を受け止めるといえば、真剣白刃取り。
「独眼竜正宗」でお馴染みですが、
深作欣二ファンの私としては「魔界転生」を推したいところです。

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