KNPC83梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり) / 通称 石切梶原(いしきりかじわら)

かぶきねこづくし

描かれている人物

左下:梢、六郎太夫
中央:梶原平三景時
右上:二つに切られた手水鉢

絵の解説

梢、六郎太夫、まっぷたつに切れた手水鉢(原画)

梶原の刀の目利きを見守る梢、六郎太夫。
梢が父親思いでとても可愛らしいです。

「誰あろう梶原様が遊ばして下さりましょうとは、これ父さん喜ばしゃんせ、ありがたいことじやないかいなぁ」

鑑定の前、梶原に刀を持っていく梢のセリフ。
「〜じゃないかいなぁ」は、歌舞伎の娘や若妻がよく使うセリフですが、これがとても可愛いのです。
衣装は浅葱にしのぶ模様で村娘の定番です。

梶原平三景時(原画)

口に懐紙をくわえ、刀を鑑定する梶原。
「石切梶原」には吉右衛門型と羽左衛門型、鴈治郎型があります。
「名橘誉石切(なもたちばなほまれのいしきり)」
「梶原平三試名剣(かじわらへいぞうためしのわざもの)」
など外題も梶原を務める俳優さんによって異なります。

型によって絵が大きく変わるので、石切ではなく鑑定の場面にしました。

吉右衛門型(播磨屋型)
初代吉右衛門の型。
手水鉢の手前に後ろ向きに立ち、客席に背中を向けて斬ります。
石が切れる仕掛けを見せないため、従来の型が桃太郎型と揶揄されるのを嫌ったため、というのを何かで読んだことがあります。
背中で演技しなければならず、芸の腕前が試される型だと思います。

羽左衛門型(橘屋型)
十五代市村羽左衛門が考案したもの。
手水鉢の向こう側に立ち、客席に正面向いて切り、
まっ二つになった手水鉢の真ん中をポンと飛び越して手前に出ます。

鴈治郎型
初代中村鴈治郎型。
舞台が星合寺になり、手水鉢の角を落とします。

あらすじ

本名題 「三浦大助紅梅靮(みうらのおおすけこうばいたづな)」三段目

主な登場人物と簡単な説明

・梶原平三景時(かじわらへいぞうかげとき)
平家方の武将。
石橋山の戦いで源頼朝をひそかに逃して以来、源氏方に心を寄せている。

・六郎太夫(ろくろうだゆう)
源氏方の青貝師(螺鈿職人)。父は源氏の武将。

・梢(こずえ)
六郎太夫の娘。許嫁が源氏方。

・大庭三郎景親(おおばのさぶろうかげちか)
平家方の武将。石橋山の戦いで源頼朝を敗る。
大敵と呼ばれる、風格を備えた敵役。

・俣野(股野)五郎景久(またののごろうかげひさ)
平家方の武将。大庭の弟。赤っつらの血気盛んな若者。

他、奴萬平(やっこまんぺい)、剣菱呑助(けんびしのみすけ)などがいます。

あらすじ

早春の鎌倉八番宮。
大庭景親は、弟の俣野五郎、梶原景時(当時は平家方)らと杯を重ねていました。
そこへ六郎太夫が娘の梢と訪ねてきて、金が入用なので大庭に家宝の刀を買って欲しいと頼みます。
源氏方の六郎太夫は、頼朝が源氏再興のため軍資金を集めていると聞き、金が入り用になったのです。
大庭が梶原に目利きを頼むと、梶原は一目みて「天晴れ稀代の名剣」と賞賛します。

しかし俣野が口を挟み、刀の切れ味を試すため、二つ胴(人間二人を重ねて、その胴を一度に斬る)の試し斬りをすることになりますが、死罪の罪人は一人しかいません。
六郎太夫は娘の梢をわざと帰らせ、試し斬りになると志願します。

刀の銘から親娘を源氏方と知った梶原は、わざと六郎太夫を切り損ねて助けます。
二つ胴が斬れなかったと大庭兄弟は嘲り立ち去ります。
梶原は父親娘に自分の本心は源氏方にあることを明かし、石の手水鉢を切って刀の切れ味を見せ、自ら刀を買い上げる約束をします。

私のツボ

梶原景時いろいろ登場

梶原平次景高、梶原平三景時「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」より(原画部分)

「寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)」
息子の景高(赤っつら)と並んで工藤祐経の後方に座っています。
白髪です。

「外郎売(ういろううり)」
「外郎売」が「対面」の趣向を取り入れたものなので当然ながら登場します。

「義経千本桜」より「すし屋」
源頼朝に仕える武将で平維盛を探しています。
権太から小金吾の首が入った寿司桶と、維盛の妻子(に扮した権太の妻子)を引き渡され、褒美に頼朝の陣羽織を権太に渡して引き上げていきます。
貫禄十分な憎々しい武将です。
引立烏帽子の中央に家紋の並び矢羽がついています。
「石切梶原」の梶原も、並び矢羽柄の裃に袴です。

「かぶきがわかるねこづくし絵本2 義経千本桜(講談社刊)」より原画(部分)

と、敵役で登場することが多い梶原景時です。
頼朝の家臣なので、同じ源氏方でも義経とは敵対する立場になることが多いです。
が、本演目は良い人で登場します。
良い人どころか、生締(なまじめ / 立役の髷の名称のひとつ)と呼ばれる役柄で、
性根は実事(じつごと)ですが、白塗りで二枚目の風貌をしており、捌き役(さばきやく)とも呼ばれます。
「盛綱陣屋」の佐々木盛綱、「新薄雪物語」の葛城民部、「実盛物語」の斎藤実盛などと同じ役どころです。

「対面」の景時とは同姓同名の別人だと思うくらいの変わりようです。そんな驚きや面白さが絵にしたい動機にもなります。

ちなみに息子の梶原平次景高は「熊谷陣屋」で平家の残党狩りをする憎らしい役で出てきます。
また、「ひらかな盛衰記〜源太勘当」では長男源太、次男平次、妻の延寿と家族が登場します。

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