AKPC97 「陣門・組打(じんもん・くみうち)〜一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)より」

もうひとつ

描かれている人物

赤枠上:(左から)平敦盛、玉織姫、小次郎
下:熊谷次郎直実

絵の解説

笛の音に聴き入る小次郎

平山武者所に抵抗する玉織姫、直実の前で手を合わせる敦盛

敦盛の首を抱え引き上げる直実

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・熊谷次郎直実(くまがいじろうなおざね)
源氏方の武将。

・熊谷小次郎直家(くまがいこじろうなおいえ)
直実の息子。16歳。
須磨浦の合戦が初陣で、父と共に出陣する。

・平敦盛(たいらのあつもり)
笛の名手。小次郎と同じ年齢。
平家の武将だが官位はないので無冠太夫(むかんのたゆう)とも呼ばれる。

・玉織姫(たまおりひめ)
敦盛の許嫁。

他、平山武者所などがいます。

あらすじ

須磨浦陣門の場
須磨一ノ谷、平家の陣門の前に、熊谷次郎直実の息子の小次郎が一人攻め込んで来ている。
陣門の中から聞こえてくる笛の音に、さすが都人の優しい心根と聞き入り、しばし感慨に耽る。
そこへ味方の平山武者所がやって来て、早く討ち入れとけしかける。
初陣を飾ろうと小次郎は勇んで攻め込む。

直実が到着すると、平山は「一人で勝手に攻め入った」と告げる。
それを聞いた直実は陣門に攻め入り、やがて手傷を追った小次郎を小脇に抱えて出てきて治療をすると立ち去る。
白馬に乗った敦盛が陣内から姿を見せ、平山は逃げ去る。

一方、敦盛の許嫁の玉織姫は敦盛を探し歩くうち、平山に出会う。
玉織姫に横恋慕する平山は強引に言い寄るが、姫は抵抗する。
「さっき敦盛を討った」と平山がいうと、激昂した姫が斬りかかろうとする。
平山は姫を刺して岩陰に投げ入れる。

須磨浦浜辺組打の場
須磨の海辺。
敦盛が退却する平氏の船に乗るため馬を波間に入れていた。
後を追う直実と一騎打ちとなる。
勝負はつかず、組み討ちとなり、やがて直実は敦盛を組み敷く。
息子と同じ年齢の若者を逃がそうとするが、平山が「平家方の大将を組み敷きながら助けるとは二心」と大声で叫ぶので、仕方なくその首を打ち落とし勝鬨をあげる。

その声を聞いた玉織姫が、息も絶え絶えながら夫の顔を見せて欲しいと懇願する。
目が見えない姫に、直実は敦盛の首を抱かせてやる。
敦盛の首を抱きしめ、玉織姫は息絶える。

直実は二人の亡骸を板に乗せて海に流し、敦盛の首をだき、敦盛の鎧兜を馬に乗せて立ち去る。

私のツボ

美しい笛の音

「陣屋」に比べて上演頻度の低い「陣門・組打」。
重い内容ですが、馬や遠見や浪幕などの歌舞伎らしい演出と滅多に上演しないという希少性が相まって、大好きな演目の一つです。
物語の主人公である直実と、”つぼみの花”たる三人の若者という構図。
脂っぽい平山も捨て難いのですが、ここは儚さを優先しました。

印象的な場面が小次郎が陣門の前で笛の音に聞き入って涙ぐむところ。
美しい笛の音が、初陣にはやる小次郎の足を止め、戦いの虚しさという普遍的な真理を気づかせる。
かたや、平山武者所は笛の音は油断させるための策略だと一蹴します。
彼には響かない。

結果的には美しい笛の音は若者の命を救うことはできず、争いを止めることはできませんでした。
芸術は、直接的に平和をもたらすことは難しく、そのような意味では武力の前には無力なものです。
ですが、笛の音色の美しさは小次郎の胸の奥に響き、彼の武士としての本分を揺さぶります。
何のために”修羅の剣”を研ぐのか?
この問いを立てさせるのがおそらく芸術の、美の役割ではなかろうかと思います。
そして、その美を受け止められる感受性を育むのもまた芸術であり、美である。
親が子を討つという悲劇的な内容から反戦劇と評されることの多い「一谷嫩軍記」ですが、戦争の対極あるいは抑止するもの、あるいは救いとして芸術(=笛の音)が配置されているのかな、などと”かかる乱れの世の中”の今、思うのでした。

余談です

普段、現役の歌舞伎俳優さんについて言及しないのですが、今回は例外とします。
と、前置きをいたしまして、2年ほど続けてきた「もうひとつのかぶきねこづくし」今年はちょっと描くペースを落とそうと思い、1月はお休み、2月もお休みの予定でいました。
が、しかし、『陣門組討』を見て、勘九郎さんの熊谷直実に感激してしまい、もう描かずにいられませんでした。
実直で、誠実で、骨太で重厚感ある武将。
そう、これが観たかった、この古典劇の重さを味わいたかったのですよ。
二代目吉右衛門さんを彷彿とさせる熊谷直実で、こうして芸は引き継がれていくのだなと、とても感慨深かったです。
勘九郎さんの『熊谷陣屋』が楽しみです。

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