AKPC77 『増補忠臣蔵 本蔵下屋敷』

もうひとつ

描かれている人物

赤枠左:(左から)井浪伴左衛門、戸無瀬
赤枠右:三千歳姫
下:(左から)加古川本蔵、桃井若狭之介

絵の解説

若狭之介を殺害せんと茶釜に毒を仕込む伴左右衛門

縫之助を想ってのクドキ

「主従は三世じゃぞよ」
本蔵を見送る若狭之介
右奥では三千歳姫が琴を弾いている

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・加古川本蔵(かこがわほんぞう)
桃井若狭之助の家老。
塩冶判官の刃傷事件以降、下屋敷に蟄居している。
若狭之助の妹・三千歳姫を預かっている。

・桃井若狭之助(もものいわかさのすけ)
本蔵が高師直に賄賂を送ったことが世間に知れ(「仮名手本忠臣蔵」二段目・三段目)、
「へつらい武士」と呼ばれるようになってしまう。

・三千歳姫(みちとせひめ)
若狭之助の妹。
塩冶判官の弟・縫之助(ぬいのすけ)と婚約中だったが、
刃傷事件以降、婚姻は延期になっている。

・井浪伴左衛門(いなみばんざえもん)
桃井家の家臣。
三千歳姫に横恋慕し、お家乗っ取りを企む悪人。

あらすじ

加古川家下屋敷茶の間
塩冶判官による刃傷事件の前に高師直に賄賂を送ったことが知れ、
主君の桃井若狭之助が”へつらい武士”と呼ばれる原因を作てしまった加古川本蔵は、
その責任を負って下屋敷に蟄居していた。
また、本蔵の下屋敷には、塩冶判官の弟との婚礼が延期になった若狭之助の妹・三千歳姫が預けられていた。

ある日、若狭之助が本蔵の成敗のために屋敷にやってくる。
伴った家臣の井浪伴左衛門は、桃井家を乗っ取ろうと企んでいた。

伴左衛門は茶釜に毒を仕込み、三千歳姫には殿の上意と偽って婚姻を迫る。
陰で一部始終を見ていた本蔵は伴左衛門をたしなめる。
不忠者と責める伴左衛門。
そこへ若狭之助より本蔵成敗の命令が下る。

同 奥書院
奥庭の土壇に引き立てられた本蔵に、若狭之助は憤りをぶつける。
高師直を討つことに賛同したくせに、独断で賄賂を送ったせいで、
師直を討つ機会を逃したこと。
さらに”へつらい武士”との汚名を着せられてプライドを傷つけられたと本蔵を激しく責める。
そして自ら成敗すると本蔵に向かって刀を振り上げるが、
若狭之助が斬ったのは伴左衛門であった。

本蔵の心の内をすべて読み取っていた若狭之助は、長の暇を許し、
虚無僧の衣一式と師直邸の図面を渡す。
そして二十五年もの間、仕えてくれたことに礼を言う。

それぞれが今生の別れと知りつつ、
若狭之助と三千歳姫に見送られ、本蔵は山科へと旅立つのであった。

私のツボ

B級の楽しさ

「仮名手本忠臣蔵」関連の資料を読むと、
ほぼ100%「駄作」の烙印を押されている本編「増補忠臣蔵」。

駄作と言われると余計に観たくなってしまうというものです。
念願かなってか、2018年3月に国立劇場で上演されました。
なお、「増補忠臣蔵」だけでは集客力は弱いと判断したのか「髪結新三」との二本立てでした。

大序であれだけ息巻いていた若狭之助がその後どうなったのか気になっていたので、
元気な桃井殿を観られただけでも大満足です。
桃井殿は相変わらずの直情型で、伴左右衛門のベリベリした悪役に、
紅一点の三千歳姫は兄とは違って儚げな佇まい。
お約束の構成、安定の勧善懲悪、歌舞伎的様式美。

単純明快すぎる性格の桃井殿は「土屋主税」と衣装もキャラも被ります。
それもそのはず、どちらも初代&二代目鴈治郎が得意とした役なのでした。

「山科閑居」への説明じみた布石が多く、ツッコミどころも満載ですが、
そのツッコミどころを探すのがB級作品鑑賞の楽しみなのです。
私には駄作とは言い切れませんが、珍作だとは思います。
この作品によって「山科閑居」の深みが増すわけでもなく、
いわんや「仮名手本忠臣蔵」をや。
そこが珍作たる所以で、
そしてこの珍作を家の芸にしてしまう初代&二代目鴈治郎の芸力よ。

この歌舞伎の懐の深さ、
これが私が歌舞伎を好きな理由の一つです。

AKPC76 『仮名手本忠臣蔵』九段目 「山科閑居」
AKPC75 『仮名手本忠臣蔵』九段目 「雪転かしの段」
KNPC43 「仮名手本忠臣蔵」〜九段目「山科閑居」
KNPC39、40 「仮名手本忠臣蔵」その1〜大序(だいじょ)

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