AKPC59 「彦山権現誓助剱~①毛谷村(けやむら)」

もうひとつ

描かれている人物

上左:微塵弾正実は京極内匠
上右:毛谷村六助
下:(左から)お園、六助、弥三松、お幸

絵の解説

左:微塵弾正実は京極内匠に騙されたと知って激怒し、庭の青石を踏みつける六助
「思わず踏んごむ金剛力」
右:庭先で六助と試合をする微塵弾正実は京極内匠

原画

微塵弾正こそが仇の京極内匠とわかり、遺恨をはらすべく身支度を整え出立せんとする見得
※お園の姿勢が違う、六助が椿を持つ、弥三松が臼の上に立つ、など家や俳優によって型が異なります

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・毛谷村六助(けやむらろくすけ)
豊前国英彦山(現在の福岡県)の麓の毛谷村に住む心優しき青年。
吉岡一味斎から剣術の奥義を授けられた剣術使い。

・微塵弾正実は京極内匠(みじんだんじょう じつは きょうごくたくみ)
微塵流の剣術の達人。
長門国(現在の山口県)郡家の剣術指南役だったが、同役の一味斎に御前試合で負けたことを逆恨みして暗殺、出奔。
一味斎の娘でお園の妹のお菊に横恋慕した挙句、殺害。
六助を騙して試合に勝ち、小倉藩の剣術指南に収まる。
実は明智光秀の遺児。

・お園(おその)
吉岡一味斎の長女。大力で武術に長けた女武道。
六助は親が決めた許嫁。
実は一味斎の実子ではなく、伊勢参りの帰り道に名器「千鳥の香炉」と共に拾われた子。

・吉岡一味斎(よしおかいちみさい)
長門国・郡家の剣術指南役。京極内匠に暗殺される。

・お幸(おこう)
一味斎の後室。

・三之丞(さんのじょう)
お園、お菊姉妹の弟。目が不自由なことを苦にして自害する。
通し狂言でも登場しないことが多い。

・お菊(おきく)
お園の妹。
郡家の家老・衣川弥三左衛門の息子・弥三郎と恋仲で、弥三松という子をもうける。
京極内匠に横恋慕された挙句、殺害される。

他、斧右衛門などがいます。

あらすじ

これまでの経緯
※2002年12月国立劇場での通し狂言を参考にしています

長門国、郡家の剣術指南役を務める吉岡一味斎は、
御前試合で負かした同役の京極内匠に恨まれて殺害される。
(「周防国山口八幡宮の場」)

残された家族は各々仇討ちの旅に出るが、
息子の三之丞は盲目ゆえに足手まといになるのを恐れて自害。
(「長門国吉岡一味斎屋敷の場」)

お菊は京極内匠の返り討ちにあって命を落とす。
一子・弥三松は、お菊のお供をしていた若党に助けられる。
(「摂津国須磨浦返り討の場」)

山城国小栗栖村(現在の奈良県吉野郡)近くの瓢箪棚。
夜鷹に扮して敵を探すお園。
そこへ若党がお菊の死を知らせに来、責任をとって切腹。
その際に敵(京極内匠)から奪った守り袋を池に投げ入れる。
すると水気が湧き上がり、池の蛙が一斉に鳴き出す。
池の中から霊刀・蛙丸(かわずまる)が出現。
実は明智光秀の遺児だった京極内匠は、霊力に引かれて登場し、刀を入手。
お園は鎖鎌を操って京極内匠と知らぬまま激しく争うが、
京極内匠は蛙丸を手に逃走する。
(「山城国小栗栖瓢箪棚の場」)

杉坂墓所。
百姓六助が母の墓参をしていると、
老婆を連れた微塵弾正と名乗る男が現れ、
余命いくばくもない母に孝行したいので試合に負けて欲しいと六助に頼む。
六助に勝った者は剣術指南として召し抱えるという御触れが小倉藩から出ているからである。
孝行のためならと六助は快諾する。

帰り道、山賊に襲われている若党と幼子(弥三松)を助ける。
若党は幼子を託して絶命、六助はその子を家に連れ帰る。
(「杉坂墓所の場」)

毛谷村
六助の住処。
庭先で弾正と六助の試合が行われ、約束通り六助はわざと負ける。
弾正は扇で六助の額を傷つけて高笑いするが、六助は笑って激励する。
弾正は仕官が決まり立ち去る。

そこへ旅の老女が休ませて欲しいとやってきて、六助は快く招き入れる。
六助が弥三松の身寄りを探すために干していた着物を見て、虚無僧に化けたお園がやってくる。
六助を敵と勘違いしたお園は大暴れするが、昼寝から起きた弥三松が「おばさま」と抱きつく。

六助が許嫁と知れ、途端にしおらしくなるお園。
そこへ先ほどの老婆が現れ、一味斎の後室と身分を明かす。
一味斎の仇を討つべく、お幸が仲立ちとなり、六助はお園と祝言をあげる。

私のツボ

衣装あれこれ

東西あるいは家によって型が細かく異なるので、
絵にしにくかったことは過去の作品(KNPC73)の項で書きました。

KNPC73 彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)~毛谷村(けやむら)

今回、新年早々に新国立劇場で通し上演されるとのこと。
あなめでたや、便乗して早速描きました。

大まかな区分ですが ”上方ではない” 型で描きました。

見どころが多くて、どこをとっても絵になる演目ですが、
幕切の絵面の見得が華やかで描きたかった場面。

お園の襦袢の赤、六助の背中にさした紅梅、弥三松が持つ白椿。
薄紫、紫、黒、赤、緑、水色、ベージュ。
色相をほぼまんべんなく網羅した配色のバランスが良い舞台。

六助が着る裃のあられ模様は個人的に大好きな模様。
ランダムな大きさの水玉がかわいいです。
「渡海屋」の入江丹蔵も同じあられ模様。
「仮名手本忠臣蔵」の四段目の由良之助の裃もよく見ると細かいあられ模様です。

お園は竹に雀の衣装。
竹に雀は日本画でもよく描かれる画題。
「伽羅先代萩」の足利家奥殿の襖に竹と雀が描かれています。

弥三松の着物は、宝づくし。
玩具が染め抜かれています。

お幸は俳優によって若干が異なりますが、色味は同じで、
着付と頭巾は淡いグレー、裲襠はベージュ系です。
老婆役に多い配色。

そして敵役の京極内匠は、敵らしくモノトーンの配色。

「毛谷村」の場合、京極内匠は登場時間が短いので、
なんだかよくわからんが嫌な奴、程度で終わってしまいます。

遠目に見える冬枯れの山と、紅白の梅、白い椿。
鄙びた里山ののんびりした冬の景色。
おおらかな六助と、腕っぷしの強いお園の楽しいやりとり。
ちょっととぼけたお幸と、かわいい弥三松。

歌舞伎を見始めた頃、あらすじも何も知らないまま観て、
よくわからなくても楽しくて好きになった演目の一つ。

原作の設定

原作の浄瑠璃は全十一段の長編で、明智光秀や真柴久吉が絡む”太閤物”です。
大まかに展開をまとめました。

第一段:住吉社前で木曾官(もくそかん)という朝鮮人が毛利家の家臣になる
第二段:彦山で異人に扮した一味齊が六助に剣術の伝書を授ける。
六助をお園の許嫁とし、吉岡家を継ぐよう頼む。
第三段:木曾官が明智の残党・四方田丹馬守と見破られて切腹
第四段:一味斎が京極内匠によって殺される
第五段:お園出立
第六段:須磨の浦でお菊が返り討ちにあう
第七段:瓢箪棚
第八段:杉坂墓所
第九段:毛谷村
第十段:真柴久吉の前での御前試合に参加した六助は相撲に負けて、貴田孫兵衛(きだまごべえ)と改名し、加藤清正の家臣となる。
第十一段:加藤清正が検視となる中、お幸、お園、弥三郎は、六助に助けられて京極内匠を討ち、本懐を遂げる。

あくまでも原作での設定です。
大まかな概要を調べたのは、お園の実の父親が誰だか気になったため。
調べたところ、仙石権兵衛(せんごくごんべえ)という豊臣秀吉の最古参の忘れ形見という設定。
ということは、お園は豊臣側の人間となり、
明智光秀の忘れ形見・京極内匠は先祖伝来の宿敵という運命となりましょう。

やや強引な気もしますが、
どうしても”太閤もの”にしたかった戯作者の意地のようなものが感じられます。
荒唐無稽な話は大好きなので、お園の実の親がわかってスッキリしました。

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