描かれている人物
右:(左から)おみの、磯貝十郎左衛門
左:大石内蔵助
絵の解説
瀕死のおみのの肩をそっと抱きかかえる磯貝
切腹の場に赴く大石
背景の梅は、内記と対面した際、窓から見える庭の梅。
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・大石内蔵助(おおいしくらのすけ)
赤穂藩の国家老。
赤穂浪士を率いて仇討ちを達成する。
その後、17名の浪士たちと細川家の屋敷でお預かりの身となり、
沙汰が下るのを待っている。
・磯貝十郎左衛門(いそがいじゅうろうざえもん)
赤穂浪士。大石らと共に細川家に預かられている。
仇討ちの計画を周囲に悟られないよう、おみのと婚約した。
・おみの
磯貝の婚約者。
磯貝の本心を知るため、小姓になりすまして細川家に出仕する。
が、大石にすぐ見破られる。
他、細川内記、堀内伝右衛門などがいます。
あらすじ
芝高輪細川家中屋敷下の間の場
元禄16年2月4日。
仇討ちを達成した赤穂浪士たちは諸家に預かりの身となり、
沙汰が下るのを待っていた。
大石内蔵助は細川家にて、一見、穏やかな日々を送っていた。
だが、大石の心中は穏やかでなかった。
世間に忠臣ともてはやされて浪士たちが舞い上がっているからであった。
加えて、磯貝十郎左衛門が何やら隠し事をしているのも気にかかっていた。
そこへ、細川家の総領息子の内記利章が訪ねてきて、大石に何か一言と願う。
大石は「人はただ初一念を忘れるな」と話す。
感銘を受けた内記だったが、大石たちはあくまでも罪人なので、
長居することも憚られ、名残惜しそうに立ち去る。
同 詰番詰所の場
半刻後、細川家家臣堀内伝右衛門が大石を呼び止め、
知り合いの小姓を浪士たちの世話係にさせてほしいと頼む。
茶を運んできた小姓を見て、大石は女と見抜く。
その娘はおみのといい、磯貝の婚約者だった。
磯貝は本当は自分のことをどう思っていたのか知りたいと、堀内を頼ってきたのであった。
磯貝の決意が揺らぐことを案じた大石は面会を断る。
その時、周囲が慌ただしくなり、大石は切腹のお沙汰が下ったことを悟る。
おみのの必死の訴えに心を動かされた大石は、磯貝との面会を許可する。
そんな人は知らないと拒む磯貝だったが、
おみのの琴爪を懐に入れていることを大石に指摘され、返事に詰まってしまう。
それを聞いたおみのは、磯貝の本心を察する。
磯貝は「十郎左は婿に相違ござらぬ」と言葉を残して立ち去る。
同 大書院の場
上使がやってきて、
赤穂浪士に切腹の沙汰が下ったこと、
吉良家の当主義周がお預けの身になったことを告げる。
吉良家にお咎めが下ったことを喜ぶ浪士一同であった。
同 元の詰番詰所の場
死装束に着替えた浪士たちが詰所の前を通りかかると、
自害して瀕死のおみのが倒れていた。
死を覚悟して磯貝に会いにきたとおみの。
大石は磯貝とおみのを対面させる。
時の太鼓の音。
大石は磯貝ら浪士たちを先に行かせ、
晴れやかな顔で切腹の場へと赴くのであった。
私のツボ
お灸のような魅力
「仙石屋敷」を描いた流れで、「元禄忠臣蔵」のクライマックスである
「大石最後の一日」を描きました。
私にとって新歌舞伎の印象を覆した作品です。
歌舞伎らしくない、つまらないと言われがちな新歌舞伎。
私も最初の頃は新歌舞伎が苦手でした。
派手な演出もなく、動きが少なく、セリフが長く、
平たくいえば歌舞伎らしくないから、というのが苦手な理由。
観劇中に、つい気が逸れてしまうことが多い。
そんな先入観があったので、
あまり期待しないで観た「大石最後の一日」でしたが、
あにはからんや、どうしてこんなに引き込まれるのか。
すっかり引き込まれ、思わず涙を流してしまいました。
真山青果が一番最初にこの戯曲を書き、
それが好評だったので連作が書かれたと知り、
だから完成度が高いのかと、いたく納得しました。
じんわりと心の機微が伝わる、お灸のような作品です。
この”じんわり”は新歌舞伎だからこそ醸し出せるのではないかと思います。
史実に基づいているとはいえ、
そこには歌舞伎ファンの期待を裏切らない立派な大石内蔵助がいます。
おみのという女性は史実には存在しません。
おみのと磯貝のエピソードは、
観客の涙をしぼると同時に、大石を際立たせるためのエピソードとも言えましょう。
死を前にして、なお冷静で、部下たちのことを思う大石内蔵助。
そう、歌舞伎ワールドにおいては大石内蔵助、大星由良助はこうあってほしい。
新歌舞伎とはいえ、あくまで歌舞伎の枠組みを出ません。
その戯曲の世界観はもちろん、
セリフの間合いや呼吸、リズム、動きのテンポ、などなど。
新旧のせめぎ合いというか、
この作品を観劇して以降、
新歌舞伎の中の歌舞伎らしさを探すのが楽しくなりました。
名場面の多い演目ですが、
私が一番好きな場面、泣いた場面にしました。
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