AKPC50 「曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)」④「五條坂逢州座敷の場」

もうひとつ

描かれている人物

左上:(左から)女小姓胡蝶、時鳥の霊、女小姓舞振
右上:浅間巴之丞
左下:雪枝小織之助
右下:逢州

絵の解説

笛を吹きながら登場する時鳥の霊。
吹いているのは巴之丞にもらった名笛男浪(おなみ)。
両脇に従えているのは女小姓の霊。

原画

五條坂の花街で遊ぶ巴之丞

原画

琴を弾く逢州

原画

時鳥の霊に手を合わせる小織之助

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・時鳥(ほととぎす)
巴之丞の愛妾。
巴之丞の正室の母・百合の方に殺害される。

・浅間巴之丞(あさまともえのじょう)
京都で勤番中。奥州に残した時鳥が恋しい。
時鳥にそっくりの逢州に入れ上げる。

・逢州(おうしゅう)
五條坂の傾城。巴之丞の寵愛をうける。
父の仇を探して流浪の末、廓に身を潜めている。
生き別れた妹がいる。
本名は忘貝(わすれがい)で、時鳥の実の姉。

・雪枝小織之助(ゆきえださおりのすけ)
浅間家の警固役。
時鳥殺害の第一発見者。

他、星影土右衛門の手下などがいます。

あらすじ

五條坂仲之町の場
京都で勤番中の巴之丞は、五條坂の遊郭で時鳥にそっくりの傾城逢州に出会う。
そこへ浅間家を追放された星影土右衛門の手下たちが襲いかかるが、巴之丞はこれを蹴散らす。
逢州は巴之丞の家紋を見るや、懐から巻物を取り出して巴之丞に手渡す。

逢州曰く、
逢州の本名は忘貝(わすれがい)といい、浅間家の茶道師範・団の一斎の娘である。
宿居虫(やどかり)という妹がいた。
巴之丞の命を受け、一斎が茶杓を買いに出たところ何者かに斬られる。
今際の際に駆けつけた姉妹に茶道奥義書を託して巴之丞に渡すよう言い残す。
また、忘貝の妹・宿居虫は実の娘ではなく、
幼い時に、淀の船の雑踏で取り違えた娘であることを告白して息絶える。
その後、姉妹は旅に出たが悪者に騙されて離れ離れになる。
父の仇と、実の妹を探して廓に潜んでいる。

巴之丞は逢州に同情し、まだ星影土右衛門の手下がうろついているかもしれず、
今宵は逢州のところに泊まることにする。

五條坂逢州座敷の場
逢州の座敷で盃をあげる巴之丞。
逢州の身の上話を聞くうちに、時鳥と逢州は実の姉妹と判明する。

巴之丞の求めで逢州が琴を弾くと、外から笛の音が聞こえる。
見れば、女小姓を従えた時鳥が笛を吹いていた。
病気が治ったので、京都まで会いに来たという時鳥。
彼女が死んだことを知らない巴之丞は、再会を喜び、逢州と対面させる。

姉妹の対面を、泣いて喜び合う時鳥と逢州。
だが、姉・逢州から父の最期を聞いた途端、時鳥は髪を振り解いて逆上し、姿を消す。
後には白木の位牌が残されていた。

呆然とする逢州と巴之丞のところへ、国許から雪枝小織之助が来たとの知らせ。
通して話を聞けば、時鳥が百合の方に殺害されたこと、百合の方は自害したとのこと。
小織之助は、持っていたはずの位牌がすでに座敷に置かれているのを見て驚く。

三人が位牌に手を合わせると、床の間の百合と撫子が活けられた花車の車輪が回り、
炎をあげて燃え盛るのであった。

私のツボ

逢州の過去

通しではなく、後半の「御所五郎蔵」のみの場合、浅間巴之丞は役としては登場しません。
逢州の過去は丸ごとカットされます。
あくまでも巴之丞が入れ上げる心優しき傾城と、脇役のポジションです。

通しの場合でも、この場面がカットされる場合がありますが(2003年6月歌舞伎座)、
逢州の過去と人となりが分かり物語に奥行きが出るので絵にしました。

「曽我綉侠御所染」は登場人物それぞれが過去で微妙に繋がっており、
絡まり方がなかなかよく出来ているなと思います。
やや強引なところもありますが、そこは歌舞伎ならではのお約束。

とりわけ、
逢州にとって巴之丞は父が仕えた主人筋だったという事実は重要です。
彼女が皐月の身代わりになったのも、
同じ浅間家に仕える立場の人間として助け合う、
という意味合いも含まれるように思え、
それならば合点がいくというものです。
いくらその場を取りなすためとはいえ、
道中の身代わりまでする?と少々疑問だったのも解消です。

逢州の父・団の一齋を殺害したのは、
実は御家追放になった星影土右衛門だった、という展開なのですが、
そこまで話を拡げるとややこしいのでほぼ省略されます。

琴の響きに誘われて、笛を吹きながら幽霊が登場とは、
なかなか風情があるのでその場面を描きました。

巴之丞は「伽羅先代萩」の足利頼兼のような出立ちで、
まさに遊興好きのお殿様のテンプレートといったところ。

百合の方はあっけない最期ですが、
無駄に引っ張らないのが歌舞伎らしくて良いです。
百合の方は責め役としての役割を終えたらそこで退場。
主役と引き立て役が明確なのは、
あくまでも歌舞伎は演劇であり、舞台がベースだからなのでしょう。
四世南北だったら百合の方の幽霊が出てきて話がややこしくなりそうで、
それはそれで楽しそうです。

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