AKPC49 「曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)」③「浅間家館の場」「同奥庭殺しの場」

もうひとつ

描かれている人物

(左から)侍女横笛、時鳥、百合の方、侍女立浪

絵の解説

時鳥を責め苛む百合の方

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・時鳥(ほととぎす)
巴之丞の愛妾。
百合の方から憎まれている。

・百合の方(ゆりのかた)
巴之丞の正室・撫子の母。
時鳥を忌み嫌い、毒を盛るが失敗。
ついに自ら手を下す。
なお、百合の方の奸計かんけいに撫子は関与していない。

・横笛(よこぶえ)
撫子の侍女。

・立浪(たつなみ)
撫子の侍女。

他、雪枝小織之助(ゆきえださおりのすけ)がいます。

あらすじ

浅間家館の場
医師鈍玄の亡霊がくれた解毒剤のおかげで難病が治った時鳥が仏壇に手を合わせていると、
暗がりから横笛と立浪が現れ、時鳥の肩を斬りつける。
鈍玄から百合の方の奸計かんけいを聞いていた時鳥は懐刀で抵抗する。
そこへ百合の方が現れ、時鳥は肩先を斬られた上に庭に蹴落とされる。

同奥庭殺しの場
横笛と立浪によって奥庭の中ほどに引きずり出された時鳥。
時鳥の顔の疵が治っているのを見た百合の方は、憎しみと怒りが爆発し、執拗に時鳥を痛めつける。

さんざんなぶった挙句、百合の方はとどめを刺し、亡骸を池に投げ込む。
ついでに時鳥の腰元二人も刺し殺して池に投げ込み、大笑いする百合の方。

すると、床の間の笛が突然音を発して飛んで行き、同時に池から三つの人魂が飛び去る。
警固役の雪枝小織之助が奥庭に駆けつけ、提灯で照らすとあたり一面血の海であった。
闇の中から百合の方が投げつけた簪を受け止め、侍女二人を組み敷く小織之助。
あかりの先には、悠然と立ち去る百合の方の姿があった。

※雪枝小織之助は時鳥の役者が早替わりでつとめる

私のツボ

怖さこそ責め場の魅力

「曽我綉侠御所染」前半のハイライト、「時鳥殺し」
なんといっても杜若かきつばたが咲き乱れる奥庭というシチュエーションが絵心をくすぐります。
尾形光琳の八ツ橋図屏風のような庭は、燕子花かきつばたと書く方がふさわしいかもしれません。
百合の方に殺されて池に放り込まれる時鳥、という文言は、
ミレーが描いた「オフィーリア」を彷彿とさせます。

しかし、そこは歌舞伎。
一筋縄では行きません。
責め場は踊りのように動的で、
ビシバシ打擲ちょうちゃくする時の柝の音が抒情性を吹き飛ばしてしまいます。

責められる側は、えてして美女あるいは美青年で、
その痛めつけられる様が嗜虐美とよく評されます。
見てはいけないものを見るような倒錯的な美への陶酔、ということだと思いますが、
私としては責める側のテンションの高さに目が行きます。

若さへの妬みが絡まって、どんどん昂る百合の方。
とても老人とは思えぬキビキビした動きなのですが、
そこは武家の女だからか品位を崩しません。

「時鳥殺し」は、とにかく百合の方が怖い。
この怖さこそ責め場の醍醐味で、
百合の方が怖ければ怖いほど時鳥の可憐さも増すというものです。

折檻の末に殺してしまうので、なんとも陰惨な場面なのですが、
そこは江戸歌舞伎の河竹黙阿弥だからか、あまりねちっこさはありません。
百合の方、大奮闘といった感。
悲愴感の余韻に浸る間もなく、人魂が飛び出したり小織之助が出てきたりと展開が早い。
ちなみに原作(柳亭種彦の「浅間獄面影草紙」)では正室の撫子が時鳥を殺害します。
黙阿弥が百合の方に変更しました。

百合の方は五郎蔵の役者が兼ねることが約束ですが、
例外もあって、
1984年10月の公演は17代目羽左衛門が星影土右衛門と兼ねています(五郎蔵は17代目勘三郎)。

もし今「時鳥殺し」をやるとしたら、
誰の百合の方が観たいかなぁと妄想するのは楽しいものです。

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