赤枠左上から時計回りに、
①俊徳丸
②桟図書
③通俊
④羽曳野と玉手御前
⑤誉田主税之助
背景は高安館の庭先
絵の解説
右上から:置き手紙をしたためる俊徳丸、
通俊、誉田主税之助、桟図書
誉田は出張から帰ったところなので陣笠を被っています
庭先での羽曳野と玉手御前の大立ち回り。
玉手に対して容赦ない罵声を浴びせる羽曳野。
羽曳野も玉手も、綸子無地の着付に織物の裲襠という典型的な武家女房の衣装。
背景
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・玉手御前(たまてごぜん)
高安左衛門通俊の後妻で現在の正室。
元は先の正室(俊徳丸の母)に仕える腰元だった。
・俊徳丸(しゅんとくまる)
高安左衛門通俊の息子。
腹違いの兄・次郎丸がいるが、長男として扱われている。
住吉大社参詣以来、癩病にかかり、自宅で静養中。
許嫁は浅香姫。
・次郎丸(じろうまる)
高安左衛門通俊の長男だが、母が側室のため、次男として扱われており相続権がない。
俊徳丸を陥れ、家督と浅香姫を奪おうとしている。
・高安左衛門通俊(たかやすさえもんみちとし)
河内の城主。高齢で闘病中。
・桟図書(かけはしずしょ)
次郎丸の家臣にスカウトされた京都の浪人。
・誉田主税之助(ごんだちからのすけ)
高安家の家老。主君思いの忠実な家臣。
・羽曳野(はびきの)
主税之助の妻。
あらすじ
高安館表書院
俊徳丸は住吉参詣以来、癩病にかかってしまい、病床に伏していた。
玉手御前が俊徳丸の見舞いに訪ねてくるが、家老の妻・羽曳野が追い返す。
そこへ勅使が入来して、跡目相続のため俊徳丸に参内するようにと告げにくる。
出迎えた通俊らは、俊徳丸の病気を理由に延期を頼むが、勅使は納得しない。
次郎丸が”菓子折”(賄賂)を渡し、その場は一旦収まる。
この勅使は次郎丸が差し向けたニセモノで、
正体は桟図書という京都暮らしの浪人であった。
その頃、病と玉手御前の恋慕に苦悩する俊徳丸は家出しようとしていた。
そこに玉手が現れ、俊徳丸に取りすがるが逆に縄で縛られ、その隙に俊徳丸は屋敷を抜け出す。
俊徳丸の家出に、屋敷は大騒ぎになる。
俊徳丸が残した手紙には、家督は次郎丸に譲ると書かれており、
勅使もそうするよう勧めるが通俊は拒否。
家老の主税之助が戻るまで判断は保留とし、
勅使に継目の綸旨(りんじ)を預けて帰らせる。
同奥御殿庭先
玉手は俊徳丸の後を追おうとするが、羽曳野に引き止められる。
二人は激しく争い、羽曳野が気絶したすきに玉手は走り去る。
玉手と入れ替わりで出かけていた家老・主税之助が戻る。
羽曳野から事情を聞いた主税之助は、勅使が怪しいと後を追う。
綸旨:天皇の命令を書いた公文書
河内国竜田越
竜田越(たつたごえ)山坂。
勅使に化けた桟図書と次郎丸たちが落ち合って、褒美の山分けの相談をしていた。
そこへ主税之助が現れ、綸旨を奪い返し、悲運の俊徳丸の行方に思いを巡らせる。
私のツボ
高安家のお家事情
この場面にしか登場しない誉田夫妻はキーパーソン的な存在。
通俊から絶大な信頼をうける家老で、その信頼は朝廷の勅使をもっても揺るぎません。
さぞ次郎丸にとっては納得のいかないことでしょう。
誉田の妻・羽曳野も、ザ・武家女房といった凛とした佇まいで、
玉手御前の俊徳丸に対する恋慕は当然許しがたい。
通俊と先妻(俊徳丸の母)と二人に仕えた誉田夫妻。
彼らと対立する次郎丸と玉手御前は、それぞれ狙いは違いますが、
誉田夫妻にとって両者とも通俊と先妻へ反旗をひるがえす者、
すなわち高安家の敵と見做されてしまうのも仕方ありますまい。
そして問題の中心にいる俊徳丸は全てを投げ出して逃げてしまう。
通俊は玉手御前をどう思っているのか言及するようなくだりはありません。
病床の身で余裕がないため妻の変化に気がついていないのか、
家督相続で頭がいっぱいなのか、そもそも無関心なのか、通俊の真意が分からない。
それが二人の夫婦関係を物語っているような気がします。
「摂州合邦辻」は丸本物でお馴染みの三枚目が登場しないのですが、
桟図書がほんのりそれに近いような気がします。
というわけで、高安家の面々。
絡み合う思惑が爆発するスリリングな場面。
通俊は、小忌衣(おみごろも)に病鉢巻の場合もありますが、
音羽屋演出の裃にしました。
次郎丸は特にしどころがないので省略。
代わりに桟図書。
個人的に公家装束が好きなのと、
どうにも怪しげな桟図書がこの場面の良いアクセントになっています。
続く「河内国竜田越」は玉手御前と俊徳丸が出てこないので省略しました。
絵をまとめていてふと思ったこと。
似たような場面があったなぁ、、と思い出したのが『妹背山婦女庭訓』の「蝦夷館の段」。
外は雪景色、屋敷の中で物語が大きく動く事件が起こる。
『仮名手本忠臣蔵』の「山科閑居」や「討ち入り」も雪の夜でした。
雪の夜は何かと事件が起きやすいようです。
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