赤枠一段目:唐木政右衛門
同 二段目:石留武助
同 三段目:(左から)沢井股五郎、和田志津馬
同 四段目:池添孫八
絵の解説
股五郎との立ち廻り
背景
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・和田志津馬(わだしづま)
和田家の嫡男。
父の仇討ちのため、沢井股五郎を探して全国行脚中。
・唐木政右衛門(からきまさえもん)
志津馬の助太刀をしている。
お谷の妹を娶って和田家の婿として正式に助太刀に参加している。
・沢井股五郎(さわいまたごろう)
上杉家の剣術指南である和田行家を殺害。
アンチ上杉家勢力の助けを借りて逃亡中。
・石留武助(いしとめぶすけ)
唐木政右衛門に仕える若党。
政右衛門の仇討ちの旅を一緒にしている。
「饅頭娘」ではお谷を慰めていた。
・池添孫八(いけぞえまごはち)
志津馬の家臣。
志津馬と一緒に仇討ちの旅をしている。
「沼津」で登場した家臣。
あらすじ
伊賀上野。
茶店「鍵屋」にて、政右衛門と志津馬、武助らが股五郎を待ち構えていた。
そこへ林左衛門に護衛された女駕籠が通りかかる。
志津馬は逃げ、追う政右衛門たち。
乱戦の末、志津馬は股五郎を討ち取って本懐を遂げる。
めでたしめでたし
私のツボ
お約束のシメ
仇討ちものの最後の段は、主人公が悪役を倒してめでたしめでたし。
勧善懲悪でスッキリ綺麗に物語をまとめて幕。
難しいことは一切抜きにして、
軽快な演舞のような立ち廻りを楽しむものと認識しております。
政右衛門の二刀流が眼目。
竹内鬼玄丹(たけうちおにげんたん)といういかつい名前の剣術の達人やら
星合段四郎やらこの場面で登場する人物などもいますが、
演出によって異なることもあるのでまとめて省略します。
定番のメンツだけにしました。
石留武助は「饅頭娘」、池添孫八は「円覚寺」と「沼津」にも出ているので、
フィナーレで出てくると「達者であったか」と旧知の友人に会うようで
感慨深いものです。
前の場面「岡崎」との温度差に戸惑いますが、
この落差は、よりスッキリ感を味わう演出なのかもしれません。
この場面は近松半二の筆ではないので、
もしかすると違う結末だったかもしれませんが、
大団円は丸本歌舞伎らしい終わり方です。
茶店の鍵屋で政右衛門たちが待ち伏せするので、
通称「鍵屋」と呼ばれますが、
その鍵屋の佇まいがイマイチ物足りなかったので、
背景は伊賀上野城にしました。
おまけ〜伏見北国屋の段
「岡崎」と「仇討ち」の間に、「伏見北国屋の段」というものがあります。
近松半二は「岡崎」を書いた後に亡くなっており、
合作者の近松加作が書いたのではとされていますが詳細は不明。
1783年の初演時に伏見の段も上演された記録があります。
ーー以下、あらすじーー
京都は伏見の北国屋という船宿が舞台の場面。
志津馬は眼病を患って療養中。
「沼津」と同じく、お米が看病しています。
志津馬の隣室に桜田林左衛門が逗留。
林左衛門は「奉書試合」で政右衛門と御前試合を戦った相手で、股五郎の叔父。
志津馬と林左衛門があれこれ駆け引きをするも、最終的に林左衛門が逃走。
後を追う志津馬を呉服屋十兵衛が阻み、弾みで志津馬に斬られる。
そこへ政右衛門が現れて、十兵衛がわざと手にかかったと見抜く。
沢井家と和田家双方にゆかりのある十兵衛が、自ら落とし前をつけたのでした。
十兵衛は、お米の将来を志津馬に託し、股五郎の逃げ道ルートを明かして息絶える。
政右衛門と志津馬は伊賀へ出立する。
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文楽で一度見たことがありますが、
取ってつけたような都合の良い展開で、かえってモヤモヤが残ってしまいます。
十兵衛のその後を説明するために加えた場面なのでしょうけれども、
見る側に想像する余白を残すことの大切さを思い知った場面でした。
十兵衛は、沼津での一件の後も商売人として健在であってほしい。
心の奥深くに複雑な思い、
罪悪感や悲しみや喜びや葛藤や怒りや言葉にできない感情をすべて押し込めて、
時々そのせいで色白の明るい横顔に翳りがさしつつも、
その複雑な思いを払拭すべく商売に没頭する。
沢井股五郎が討たれても、商売人のしたたかさでうまく切り抜け、
これでお米も幸せになるだろうと妹の幸せを遠くで喜びつつ、
呉服屋十兵衛として生きていく。
BGMは加山雄三の「熱き心に」です。
そんな十兵衛を想像しているので、
この伏見北国屋の段は個人的には「別バージョン」という位置付けです。
因果応報、道を誤った者はそれ相応の償いをせねばならない、といったような
当時の倫理観によって書かれた段なのかもしれません。
今現在、この段が滅多に上演されないのは、
きっと私のような十兵衛贔屓が多いせいではなかろうかと思います。
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