AKPC36 『伊賀越道中双六』②「相州鎌倉円覚寺」

もうひとつ

赤枠上段:(左から)佐々木丹右衛門の家臣、沢井股五郎、沢井城五郎の家臣
赤枠中段:沢井城五郎
赤枠下段:近藤野守之助
背景:(左から)お谷、佐々木丹右衛門、和田志津馬

絵の解説

股五郎の従兄弟・城五郎
持っているのは和田家の家宝・正宗の刀

原画

股五郎の近藤野守之助。
護送中の一行を襲って股五郎逃走の手助けをする。

原画

志津馬・お谷に父の仇討ちをするよう言い残す丹右衛門

原画

丹右衛門に捕縛され連行される股五郎

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・沢井股五郎(さわいまたごろう)
悪人。
和田行家を殺害後、従兄弟の沢井城五郎に匿われている。

・沢井城五郎(さわいじょうごろう)
股五郎の従兄弟。将軍家譜代大名。
正宗の刀と股五郎の交換を上杉家に持ちかける。
アンチ上杉家。

・佐々木丹右衛門(ささきたんえもん)
和田行家の剣術の高弟。
股五郎を連行するため上杉家より遣わされる。

・近藤野守之助(こんどうのもりのすけ)
将軍家の側近。
常々、上杉家を疎ましく思っている。
アンチ上杉家の立場から股五郎逃亡の手助けをする。

・和田志津馬(わだしづま)
和田行家の嫡男。

・お谷(おたに)
和田行家の娘。志津馬の姉。
唐木政右衛門と不義密通した咎で五年前に勘当されている。

あらすじ

股五郎は従兄弟の城五郎に匿われ、鎌倉円覚寺に潜んでいた。
正宗の刀が欲しい城五郎は、股五郎の身柄と交換する取引を上杉家に提案。
行家の弟子・丹右衛門が使者として股五郎を迎えに来る。

護送中、近藤野守之助らの騙し討ちに合い、股五郎は逃走。
騒ぎを聞きつけた志津馬・お谷が円覚寺に駆けつけるが、
志津馬は股五郎に斬られて深傷を負う。
致命傷を負った丹右衛門は、志津馬・お谷の二人に、
唐木政右衛門の力を借りて父の仇討ちをするよう言い遺して果てる。

※この脚本は、2017年国立劇場公演に基づきます

文楽の場合
上杉家は、股五郎の実母・鳴海を人質にとり、股五郎との交換を迫る。
鳴海は自害、股五郎はアンチ上杉家勢力の助けで逃走。
丹右衛門は致命傷を負い、駆けつけた志津馬も負傷する。

正宗の刀の交換の件はない。
鳴海は股五郎に武士らしく責任をとって切腹することを望んで自害し、
使者の丹右衛門もそれを承知していた。

私のツボ

代理戦争

殺人を犯した股五郎は、近藤野守之助の力を借りて逃亡を図りますが、
近藤が何のメリットで股五郎に力を貸したかというと、
アンチ上杉家という立場ゆえ。

志津馬・お谷にとっての仇討ちの背景には、
上杉家 VS アンチ上杉家と言う構図が見えます。
股五郎の逃亡を助けた近藤らは、
和田家に恨みはなくとも、この事件に乗じて上杉家の勢力を削ごうと企みます。
アンチ上杉家勢は股五郎を利用し、
股五郎もまた己の窮地を逃れるために彼らを利用するwin-winの関係。

志津馬・お谷の動機は親の仇討ちと単純明快ですが、
周りはそれぞれがそれぞれの損得勘定で動く。
それぞれの利害が完全には一致しないので、
向いている方向は同じでも一枚岩とはいかない危うい関係性。
常に腹を探り合い、風向きを読む気の抜けない状況。

そもそもの発端の股五郎による行家殺害の動機がイマイチよく分からなくて、
やや衝動的なきらいもあるのですが、
物事の発端というものは意外とそんなものなのかもしれません。

あまり派手さのない場面ですが、
それぞれの思惑が絡み合う様子が面白く、個人的には好きな場面。

ちなみに志津馬はここで股五郎によって負わされた傷が元で
「沼津」のお米に看病されることになります。

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