COPC48 紫陽花と大阪城

ご当地シリーズ

絵の解説

知る人ぞ知る、大阪城公園のあじさい園。
正式名称は、あじさい・うつぎ園。
うつぎとは空木のことで別名は卯の花で、
小さな白い花をたくさんつける低木です。

どちらも梅雨の時期に見頃を迎えます。

紫陽花を観に来たご婦人方、
園内の小さな池でザリガニ釣りにいそしむ子供たち、
仕事の合間のサラリーマン、

人々の喧騒は鈍色の空に吸い込まれて、
ゆったりした空気が流れる
都会のエアポケットのような場所。

原画

原画

都会のエアポケット

天守閣から離れているからか、
平日はいつもひと気がなくて、
と言って誰もいないわけでもなく
何をするでもなく時間を潰す人、
どこかへ向かう人、
近所の子供たち、
などがチラホラいて、
人との距離感がちょうど良い公園。

大阪城の敷地内なので、
空を遮るものがなく、開放感があります。

大阪も東京も大都会なのですが、
その都会のどまん中に空がスコンと広い場所があります。
古くからある寺社仏閣や城や大名屋敷跡。

もちろん東京や大阪に限らず、
歴史があるところは必ず何かしら史跡はありますが、
大都会であればあるほど新旧のコントラストが強くて、
空がより広く感じられます。

そこだけ時間の流れが緩やかになるような、
ふと季節のうつろいに気がつくような、
都会のエアポケット。

うつぎ

梅雨の季節になるとそこかしこで紫陽花が咲き、
紫陽花が名物の庭や寺は各地にあります。

私も紫陽花はたくさん描きましたし、
今後も梅雨の風物詩で描き続けていくモチーフなのですが、
そういえば歌舞伎の舞台に紫陽花が出てこないなと
ある時思ったことがありました。

紫陽花は明治時代にシーボルトがヨーロッパに持ち帰ったことがよく知られていますが、
江戸時代は今ほど愛でられていなかったように思います。
広重や酒井抱一など、花鳥画を描いた絵師が何点か紫陽花を描いていますが、
それでも芍薬や牡丹に比べると数は少ないです。

紫陽花よりも、うつぎの方が江戸時代は馴染みがあったようで、
うつぎ別名卯の花は着物の文様としてよく登場します。
「源氏店」のお富の着物の裾回しは卯の花文様が染め抜かれています。

むしろ、私にとってはうつぎの方が馴染みがなく、
卯の花というとおから料理がまず浮かびます。

紫陽花と同じく、梅雨の頃に白い小さな花を咲かせるうつぎ。
あじさい・うつぎ園と、うつぎも忘れず入れるところに
なんというか大阪の歴史の厚みを感じるのでした。

うつぎ文様
KNPC217 与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)源氏店妾宅の場

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