AKPC33 恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたずな)より「重の井子別れ」

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤枠左:腰元若菜
同中央:調姫
同 右:本田弥三左右衛門

下:(左から)三吉、重の井

絵の解説

三吉、重の井

原画

「いやじゃ、いやじゃ」
調姫

原画

姫の機嫌を直そうと、双六を提案する腰元若菜

原画

双六に興じる弥三左右衛門

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・重の井(しげのい)
調姫の乳母。
由留木家家中の伊達与作との間に与之助を授かる。
不義密通の咎により、与作と与之助は追放される。

・自然薯三吉実は与之助(じねんじょさんきち 実は よのすけ)
重の井の実子。実父の与作は行方不明。
馬子。10歳。
両親の名前は知っているが、会ったことは一度もない。

・調姫(しらべひめ)
由留木家の息女。10歳。
政略結婚により入間家に輿入れが決まっている。

・本田弥三左衛門(ほんだやそざえもん)
入間家の家老。
調姫を迎えに来ている。
全身赤いので、通称”赤爺”。

・若菜(わかな)
調姫の腰元

あらすじ

これまでの経緯(上演はされません)
調姫の腰元だった重の井は、由留木家家中の伊達与作と不義密通。
御家の法度を犯した罪で与作は勘当される。
重の井と父・竹村定之進も暇を出されるが、定之進は責任をとって切腹する。
それによって重の井は赦され、調姫の乳母として家に残る。
重の井の子・与之助は生まれてすぐに里子に出される。

由留木家奥座敷

丹波国由留木家の息女・調姫は、江戸に向かって嫁入り道中に出発するところ。
嫁ぎ先の入間家家老が迎えに来て、さて出発となったところ、
幼い調姫は故郷が恋しくて「いやじゃ、いやじゃ」とむずかり出す。

姫の機嫌をとるため、玄関先で待機していた馬子の三吉が呼ばれ、
三吉が持っていた道中双六を打たせる。

姫は機嫌を直し、一同出発の準備に取り掛かる。

三吉に褒美の菓子を与えようとした重の井に、
三吉は「母さま」とすがりつく。
守り袋などから三吉こそ生き別れの実子であると知る。

姫への忠義、自らのために命を落とした実父への恩義、我が子への愛、
と、様々な思いが交錯し、重の井の心は千々に乱れる。

自分を拒む重の井に、三吉は泣きじゃくるのだった。

同玄関先
姫君の出立の用意が整い、一同は玄関先に集まる。
若菜が姫君出発の景気付けにと、三吉に馬子唄を歌わせる。
三吉は馬子唄を謡いながら名乗りをあげられぬ母を見返りつつ去り、
重の井は断腸の思いで三吉の後ろ姿を見送る。

その後(上演はされません)
東海道・関の宿(三重県鈴鹿市)
三吉の父・与作は勘当後、博徒となって宿場町の飯炊女(通称おじゃれ)小まんと慣れ染める。
借金が嵩み、実子とは知らずに三吉に盗みを指南。
くしくも三吉は調姫一行が滞在する宿に盗みに入って捕まってしまう。

我が子に罪を犯させた恐ろしさに、与作は伊勢街道の千貫松で心中を図る。
そこへ調姫の一行がやってきて、三吉の健気さに免じて罪を許す。
与作は由留木家に帰参、重の井は本妻となり、小まんは側室となる。
〜めでたしめでたし〜

私のツボ

とにかく赤い

歌舞伎衣装は華やかで、色遣いも何かと勉強になります。
「重の井子別れ」は特に赤色がきいていて、絵に描いた名場面、
重の井の打掛の裏側の赤がとにかく鮮やかです。
赤の比率が大きい。
そこに淡いトーンの三吉が加わって、黒が引き締める。
にくい配色です。

三吉の衣装の色遣い、淡いピンク(トキ色)と淡い水色(水浅葱)の組み合わせは大好きで、
手拭いの白も加えると、ちょっとフレンチな感じもします。

この場面は舞台写真などでよく目にするため、とても印象に残っていました。
そして満を持しての観劇。

全ての感動と涙を本田弥三左衛門の赤色づくしがかっさらっていきました。
とにかく全部赤い。
あわせも足袋も襦袢も、刀の柄も鞘も赤い!
眼鏡のフレームはさすがに黒かった。

ここまで赤い人は他の演目では見たことがなく、
なぜ全身赤で固めているのか、本人に聞いてみたいところです。

三吉が可愛くて健気で、
涙なしには見られない演目なのですが、
赤色づくしの弥三左衛門が出るたびに、
あまりの赤さにちょっと笑ってしまうので、
そこが救いのような気もします。

とにかく赤い。

重の井の父と夫

浄瑠璃でも歌舞伎でも、有名な「恋女房染分手綱」ですが、
「重の井子別れ」の場面しか上演されません。
そこで作品の詳細を調べてみると、
篠山節などで有名な馬方の丹波与作の伝記をもとに近松門左衛門が書いた「待夜小室節(まつよのこむろぶし)」が原作です。
それを吉田冠子、三好松洛らが増補改作して「恋女房染分手綱」となりました。
全十三段の長い物語で、「重の井子別れ」は十段目に当たります。

重の井より、むしろ伊達与作(丹波与作)と小まんが主人公で、世話物のような感触です。
重の井の父・竹村定之進は由留木家のお抱え能楽師。
娘の助命を請うため、能楽「道成寺」の鐘入りで切腹するという激しい最期を遂げます。
何もそんなところで切腹しなくても、、、と思うのですが、時代ものらしいドラマティックな物語です。

なんというか登場人物の振り幅が大きすぎて、通しで上演は難しいのかもしれないと思いました。

東洲斎写楽 「初代市川鰕蔵の竹村定之進」(太田記念美術館蔵)
重の井の父

歌川豊国「丹波与作 河原崎権十郎、関の小万 市川新車」(国立国会図書館蔵)
重の井の夫(三吉の実の父)、夫の愛人

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