AKPC24 元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿 (げんろくちゅうしんぐら おはまごてんつなとよきょう)

もうひとつ

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描かれている人物

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赤枠上、下段:徳川綱豊
赤丸枠上:中臈お喜世
赤丸枠下:新井勘解由
下:奥女中たち

絵の解説

御浜御殿松の茶屋
ほろ酔い加減の綱豊

原画

御座の間
新井勘解由に心情を吐露する綱豊
脇息、刀掛け、煙草盆、香炉の四点セット。
朱色の房がついた平たい鈴のようなものは漆器の香炉。

原画

右:仮兄の助右衛門からの頼み事に困惑するお喜世
眉毛が青いのは剃りたてだから。青黛眉。

左:綱豊の話を聞く新井勘解由

原画

御浜遊びで綱引きに興じる奥女中たち

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あらすじ

あらすじ

「元禄忠臣蔵」全十篇 真山青果 作

主な登場人物と簡単な説明

・徳川綱豊(とくがわつなとよ)
五代将軍徳川綱吉の甥。
甲府藩三十五万石を治める。
政治の中枢からはあえて距離をおいている。
正室は京都近衛家の出身で、
朝廷から浅野家再興の願いが正室を通じて出されている。
だが、綱豊自身は赤穂浪士たちの仇討ちを遂げさせたいと密かに思っている。

・中臈お喜世(おきよ)
甲府候綱豊卿の寵愛を受ける中臈。
かつて浅野家に腰元奉公していた縁で、
富森助右衛門の母を仮親として綱豊の奥方付の女中として再就職した。
助右衛門は仮兄。
*仮親:江戸時代の擬制親族。後見役のようなもの。

・新井勘解由(あらいかげゆ)
新井白石のこと。綱豊の学問の師匠であり、よき理解者。
政治顧問。

他、御祐筆江島、上臈浦尾、富森助右衛門などがいます

あらすじ

これまでの経緯
江戸城松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介を斬り付け、切腹する。
播州赤穂城では、籠城中の大石内蔵助はじめ56名が仇討ちの血盟を結び、城を明け渡す。
内蔵助は京の街で放蕩三昧のふりをして仇討ちの機をうかがっていた。
そんな折、浅野家再興の動きを知った内蔵助は、仇討ちか御家再興かで悩む。

御浜御殿綱豊卿
刃傷事件から一年。
徳川綱豊の別邸御浜御殿では、年中行事のお浜遊びが催されている。
綱豊の愛妾お喜世の兄・富盛助右衛門がお浜遊びの拝見を願い出る。
富森は浅野家の旧臣で、お浜遊びに吉良上野介が来ることを知り、
仇討ちのために敵の顔を見ておきたいと思ったからである。

それを察した綱豊は富森と対面し、大石の本心を探ろうとする。
口を割らない富森に、綱豊は明日将軍家に浅野家再興を願い出るという。

仇討ちを果たしたい富森は窮地に追い込まれ、
能装束を身につけた上野介を刺そうとする。

だが、それは綱豊その人であった。
綱豊は富森を組みふし、仇討ちと復讐は違うと諭す。

その後
元禄15年12月14日。
本所の吉良上野介屋敷に浪士たちが討ち入り、仇討ちが果たされる。

翌日、浪士たちは
毛利、水野、松平、細川の四家に分かれて預かりの身となる。

元禄16年2月4日。
細川家に預けられた大石内蔵助以下17名に切腹の上意が告げられる。
最後に残った内蔵助は静かに死出の道へと歩む。

私のツボ

部外の人たち

忠臣蔵を描いた演目はたくさんありますが、
「をんな忠臣蔵」とは対極に位置するシリアスな演目。

「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」は、
大石内蔵助も吉良上野介も出てきません。
当事者は赤穂浪士の富森助右衛門のみ。

言うなれば、綱豊卿も新井勘解由も
赤穂藩を見守る多くの人々に過ぎません。
将軍家の要人なので市井の野次馬よりは距離が近いですが、
それでもやはり部外の人間です。

お喜世は助右衛門の妹ですが血縁ではなく、
江戸時代の慣習によって結ばれた兄弟関係なので近いようで遠い。
一見すると、「仮名手本忠臣蔵」のおかると立ち位置が似ていますが、
おかると寺岡平右衛門は実の兄妹で、おかるには勘平という渦中の恋人がいるので
密接度は断然おかるの方が深い。

と、”当事者ではない人々から見た忠臣蔵”という視点が
この「御浜御殿」のキモだと私は思っております。

やや意地悪な言い方をすると、
助右衛門以外はそこまで追い詰められていないというか、
「仇討ちさせてあげたいなァ」と、やや他人事というか、
結果がどうであれ自分の日常にさしたる影響はなく、
お浜遊びを楽しむやんごとなき殿様に見えてしまう。
綱豊卿には彼なりの悩みや思惑はあるにせよ、です。

ただ、だからこそ助右衛門とのやり取りが際立つというものです。
綱豊卿のような善意の部外者たちが、
赤穂浪士たちをよかれ悪しかれ追い詰めていったのではと思ってしまいます。

というわけで、やんごとなき綱豊卿と、やんごとなき御浜御殿という構図。
前に能装束の場面を描いたので、今回は昼の様子です。

綱豊卿のやんごとなき日常を彩るお喜世。
ブレーンの新井勘解由は紅一点ならぬ渋一点。

「元禄忠臣蔵」は演出も現代劇に近く、
ここは好みが分かれるところです。
セリフが長くて動きが少ないのでついウトウトしがちですが、
じっくりたっぷり役者を観察できるというメリットがあります。

セリフの応酬を楽しむ時もあれば、綱豊卿にうっとりする時もあり、
衣装や舞台美術や小道具もじっくり観察でき、
楽しみ方が多いのはやはり歌舞伎の舞台ならではです。

御浜遊び

幕が開くと、御浜御殿の春めいた景色。
奥女中たちが綱引きに興じています。

客席が静かになるまでの前菜のような場面で、
「沼津」の茶店の様子なども同様です。
客席に遅れてくる人や、席を間違えた人もいたり、
幕が開いても何かとガヤついていますが、
そのガヤを利用した場面。

客席も舞台もガヤガヤワイワイ。
舞台が始まる高揚感と相まって、賑やかな幕開け。
やがて落ち着いた頃に、主要な人物が出てきます。

「元禄忠臣蔵」では綱引きで、中央に大きな鈴がついています。
勝負がつかないところに力自慢の奥女中がやってきて、、と
理屈抜きで楽しい大好きな場面。

奥女中たちの衣装も華やかで、とてもカラフルです。
紅白の綱を引っ張っているのは新入りで、
音頭を取っているのはそれなりに年季の入った奥女中なのかな、
など想像を巡らすのも楽しい。

「道成寺」の所化もそうですが、
ワイワイしている様子は楽しいものです。

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