KNPC25「 野崎村(のざきむら)」よりお染(おそめ)

かぶきねこづくし

描かれている人物

お染(おそめ)

絵の解説

戸口で中の様子を伺うお染の図

野崎村お染

野崎村お染(原画)

総友禅の振袖に総絞りのだらりの帯。
振袖の柄は菊笹麻の葉山路(はやまみち)模様。
俳優さんによって異なることがあります。

あらすじ

本外題 新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)

それぞれの事情、登場人物など

お染の事情
大坂瓦屋橋の質店油屋の一人娘。
父を早くに亡くし、母一人で店を切り盛りしていますが経営がままならず、山家屋佐四郎から借金をしています。
山家屋はお染に惚れており、結婚すれば借金は棒引きにする約束になっています。
お染は丁稚の久松と相思相愛の仲で、子供を身籠もっています。
久松の許嫁であるお光の存在は知りません。

久松の事情
久松は武士の出ですが、家が断絶したため、乳母の兄である百姓久作の養子となりました。
久作の後妻の連れ子であるお光とは許嫁の仲です。

お光の事情
許嫁の久松を兄と慕っており、病床の母に早く嫁入り姿を見せてあげたいと思っている孝行娘。

そのほかの登場人物
久作(きゅうさく):
野崎村の百姓。お光と久松を結婚させたいと思っている。

そのほか、下女およし、お染の母お常(つね)などがいます。

物語

金を横領した濡れ衣を着せられて奉公先から実家に帰された久松。
久松は久作の取り計らいで
お光と婚礼の儀をあげることになりました。
お光は嬉しそうに祝言の準備を始めます。
そこへお染が久松を訪ねて来ます。

死ぬ覚悟のお染と久松を久作が諌めます。
二人の固い決意を知ったお光は、尼になって身を引きます。

お染の母が、娘と濡れ衣がはれた久松を迎えに来ます。
世間の目があるので連れ立っては帰れないと、
お染は母と船で久松は駕籠で別々に立ち去ります。

「お染様ご無事で、兄(あに)さんおまめで、もうおさらば」

二人を見送ったお光は、
二人の姿が見えなくなると父にすがって泣き崩れるのでした。

私のツボ

かわいいお染ちゃん

裕福な商家の娘で、祝言当日に乗り込んでくるお染ちゃん。
戸口でお光を下女と間違えて、心付けを渡そうとします。
当然、お光は激怒します。

ともすれば憎まれ役になりそうな設定ですが、そうならないのが不思議なところ。
「梅ごよみ」のような女のバトルにはなりません。
嫌味にならず、世間知らずのお嬢様だから仕方ないねと思わせてしまいます。
脚本がそうだからといえばまぁそうなんですが、お染ちゃんの可愛らしさは女形の芸のなせる技なのでしょう。

四代目雀右衛門さんのお染が可愛くて可愛くて。
小さくて、か弱くて、でも情熱的かつ行動的な深窓のお嬢様。
戸口でモジモジする姿が強く印象に残っており、ここを描きました。

「野崎村」は登場人物全員が良い人なのがまた悲劇性を強めます。
悪役がいないので、誰のせいにもできません。
濡れ衣を着せた手代小助が一応憎まれ役ではありますが、役どころとしては弱いです。

廻り舞台に両花道、細やかな季節感を散りばめた舞台美術。
しっとりとした風情溢れる物語です。

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