KNPC218 宮島のだんまり

かぶきねこづくし

描かれている人物

赤枠上:平清盛
赤枠下:傾城浮舟実は盗賊袈裟太郎
赤丸下:大薩摩節
背景:宮島

絵の解説

左:袈裟太郎の傾城六方での引込み
上半身は六方、下半身は傾城の八文字の足捌きという独特の六方

右:手紙を読む傾城浮舟
人数制限によりお蔵入りになりました
傾城浮舟太夫、袈裟太郎、清盛と三人を赤枠で斜めに並べる予定でしたが、
監修よりNGが出たのでお蔵入りです。
変身前、変身後にしたかったのですが仕方ありません。

原画

平清盛(修正前)

原画

大薩摩節

原画

宮島

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・傾城浮舟太夫実は袈裟太郎(けいせいうきふねだゆう 実は けさたろう)
遊女と見せかけて実は盗賊。
厳島神社に納められた平家の旗と宝物を奪おうとしている。

・平清盛
太政大臣。厳島神社の社殿増築を命じる。

その他の登場人物
・大江広元
・河津三郎
・典侍の局
・白拍子祇王
・相模五郎
・悪七兵衛景清 など

あらすじ

浅葱幕。
大薩摩節の大夫と三味線が登場。
大夫は直立不動で謡いあげ、三味線は合引に右足をかけて弾く。

浅葱幕が落とされると、
そこは安芸国宮島の厳島神社。
清盛の命で増築された社殿落成を祝うため、平家一門が集っていた。

夜更けの厳島神社の廻廊。
夜な夜な盗賊が出るため、大江広元と河津三郎が見回りをしている。
すると手紙を読む太夫と遭遇する。

やがて灯籠が消え、色々な人が出てきて暗闇の中で探り合いとなる。

先ほどの怪しげな太夫が盗賊袈裟太郎と本来の姿で登場。
平家の宝物を盗んで花道を立ち去る。

私のツボ

大薩摩節

物語のあらましを浅葱幕の前で唄と三味線で語る大薩摩節。
「宮島のだんまり」の他には「楼門五三桐」「矢の根」「鳴神」など荒事系の演目で登場します。
骨太の語りで、何を言っているのかよく分からなくても、
語りと三味線の調子でなんとなく荒々しい雰囲気が伝わります。
聞き取れたらまたいっそう楽しさも理解も深まりますが、
音楽と同じで感じ取れたら良いと私は思っております。

大薩摩節は語りと三味線の音がイマイチあってないのですが、
そこは勢い重視というか、語りは語り、三味線は三味線で
それぞれ主張するというスタイルと知ってますます好きになりました。
フリージャズや即興音楽のライブを観ているようで楽しい。
その激しい音色とは裏腹に、三味線がずっと涼しい顔をしているのもたまりません。

大夫も三味線も、普通の舞台ではずっと座っており、動くイメージがありません。
それもあって、大薩摩節を見ると特別なものを見たようで得した気分になります。
幕外の三味線も同様です。

「宮島のだんまり」は何よりも大薩摩節が描きたかったので、描けてよかったです。

暗闘と書いてだんまりと読む

暗闇で色んな人がウロウロする”だんまり”。

”時代だんまり”と”世話だんまり”があって、「宮島のだんまり」は”時代だんまり”。
”世話だんまり”は「四谷怪談」の「隠亡堀」や「十六夜清心」の幕切付近など、演目の一部で採用される演出。
”時代だんまり”は、一つの演目として上演されるのですが、
内容はあるようでないような、一応物語はありますが、
分からなくてもさして困りません。

貴族から漁師まで、色々な人が登場し、ウロウロします。
ウロウロしている人々が一列に並ぶ蛇籠(じゃかご)という形、
引き抜き、
主人公が花道の七三へ行く幕切れ、幕外六方の引込みというスタイル。

と、だんまりにも演出のお約束があるので、舞踊に限りなく近い演目。
モダンダンスに近いと私は思っています。

歌舞伎は古典ということを差し引いても、
”なんだかよく分からない”が多い娯楽ですが、
そのよく分からなさを十分に堪能できるので大好きです。
観る側の想像力や読解力が試される演目。

「宮島のだんまり」のそもそも

目の前で広がる舞台の世界があまりにも訳がわからなすぎると、
その由来が気になります。
歌舞伎の魅力の一つでもあるわけの分からなさは、
時間の経過とともに様々な人の手が加えられて改変されてきたことにあります。
一人の人間の創造力ではなく、数えきれない人々の創造力。
エスプリの結晶というご大そうなものでもなくて、
数多の人々の蛇足だったり思いつきだったり、集客目当てで改悪されたり、俳優がアレンジしたり、
ハプニングの結晶だと私は思っています。
だからこそ現代人には発想できない展開や演出になっているのだろうと思っています。

前置きが長くなりましたが、「宮島のだんまり」のそもそもの出発点は「和田合戦もの」。
和田一族没落の悲運となった和田合戦です。
その和田合戦を題材にした戯曲が江戸時代にたくさん書かれました。
和田合戦もののスピンオフもいくつか書かれ、
和田義盛の三男の朝比奈三郎義秀と源範頼(蒲冠者)の息女・粧姫(しょうひめ)の悲劇を描いた
『岸姫松轡鑑(きしのひめまつくつはかがみ)』が人気になりました。

「宮島のだんまり」の初上演は、1842年(天保13年)の『寿亀荒木新舞台(ちよばんぜい あらきのしまだい)』。
和田合戦ものの人気にあやかって、登場人物は範頼、傾城阿古屋実は白梅の霊。
”実は〜”が袈裟太郎ではありませんが、
傾城六方が大いに受け、1862年(文久2年)に「宮島のだんまり」として上演。
範頼は畠山重忠に代わり、傾城太夫綾衣の正体として袈裟太郎が登場します。
ここで「宮島のだんまり」の原型ができ、今に至ります。

なお、袈裟太郎は、兵庫県東播磨地区(加古川、姫路)の昔話に出てくる盗賊です。
厳密には、法華山に住む盗賊”法華山の袈裟太郎”の子分の悲しいお話。
姫路といえば平家にゆかりのある土地ですから、
袈裟太郎が平家の宝物を盗んでもなんら不思議はなかろうと戯作者が考えたのでしょう。

と、和田合戦ネタ人気に、土地の伝承も盛り込み、
150年近くの年月を描けて練り上げられて出来上がった『宮島のだんまり』。
こうしてあの約20分のシュールな舞台になったかと思うと、なんとも楽しい気分になります。

修正箇所

原画


袈裟太郎の髪型をボリュームアップ、衣装修正

原画


袈裟太郎の衣装の細部、清盛の冠と扇

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