絵の解説
福岡の正月アラカルト。
玉取祭(玉せせり)
博多の筥崎宮で正月三日に開催される新春の奇祭。
十日恵比須神社正月大祭
西日本では恒例の初えびす。
稲穂を髪にあしらった博多芸妓たちの徒歩参り。
帯はもちろん博多帯。
冬の福岡といえば寒ぶり。
あったかいモツ鍋で心も体もぽっかぽか。
海の幸に山の幸。
玉せせり
玉取祭を知ったのは絵本の資料集めをしていた時のこと。
歌舞伎の演目「苅萱桑門筑紫いえずと※(かるかやどうしんつくしのいえずと)」、通称「守宮酒」が思い出され、よく記憶に残っています。
「義経千本桜」や「菅原伝授手習鑑」でお馴染みの並木宗輔らによる合作です。
※車へんに榮
舞台も同じ九州で、夜明珠という家宝の名玉を取り合うお家もの。
名玉を渡したくない加藤家は、二十歳を過ぎた処女でなければ手にした瞬間に黒く濁る玉だと喧伝します。
ならばと有力な大名・大内家が使者に立てたのが、巫女の夕しで。
しかし加藤家の家老の計略により媚薬のいもり酒を呑んだ夕しでは、美男の女之助と恋に落ちて枕を交わしてしまう。
夕しでが名玉の入った箱の蓋を開けると、中には真っ黒な塊が入っていた。
玉は偽物だったが、そうとは知らない夕しでは自分のせいだと自害してしまう。
彼女の犠牲によってお家騒動は落着し、女之助は自分を庇った夕しでの真心にうたれて出家するという悲しい物語です。
この演目がよく記憶に残っているのは、玉が家宝という珍しさ。
夜明珠は古代中国やモンゴルの秘宝とされる霊石で、異国が身近だった九州らしい家宝といえます。
物語の展開もややオカルトめいていて、寺山修司の作品のような前近代的な因習に満ちたシュールな魅力があります。
現実に繋がっている遠い昔の非現実的な、未知なるものへの興味と憧憬を掻き立てられます。
そして玉取祭。
玉取祭の霊玉は陰陽2玉あり、争奪戦に用いられるのは陽球(男玉)で、陰玉は本殿で玉せせりを見守ります。
夫婦岩ならぬ夫婦石。
夕しでと女之助の二人に結びつけたくなります。
明治時代までは博多の各地で同様の玉取祭があり、今でも姪浜住吉神社では玉競祭が催されるので、玉という存在は九州では馴染み深いものだったのでしょう。
祭祀は長い長い時間をかけて人々の間で形作られてきたもので、はるか昔の残り香がします。
こと九州においては、古代中国の、大陸の香りをほのかに含んでいます。
この「宮守酒」と玉取祭に関連があるのかは分かりませんが、一人の歌舞伎好きとしてはどこか根っこの部分で繋がっているだろうと思うのでした。
お雑煮
お雑煮も地方それぞれで、博多の雑煮はブリの切り身が入ることで知られています。
私の出身地の名古屋の雑煮はとてもシンプルです。
少なくとも我が家では、醤油ベースのすまし汁に餅菜とかまぼこと餅。
祖父母が食べやすいようにと、餅は一緒に煮込むスタイルでした。
餅がドロドロ寸前になるまで煮込むので、卵とじならぬ餅とじ雑煮です。
餅菜は、年末年始の時期だけ出回るクセのない青葉で、小松菜に似ていますが小松菜よりも葉が多くて柔らかい。
この餅菜を愛知・岐阜以外で見かけたことがありません。
さて福岡の雑煮に入る青菜は”かつお菜”。
福岡で古くから栽培される野菜らしく、アミノ酸が豊富に含まれているとのこと。
青菜のみのシンプルな雑煮が好きなので、これは一度食べてみたいなと思うのですが、九州以外では流通していないようです。
見た目は餅菜よりも強そうで、小松菜というよりケールに近い。
最近発見したのが、伊豆で流通する”かき菜”。
かつお菜と同じアブラナ科で、見た目も若干似ているような気もします。
香りが良くて美味しい青菜で、伊豆地域では雑煮に欠かせません。
こちらも旬の時期にしか流通しない伝統野菜のようで、ネットでなんでも手に入る便利な時代になってもなお、手に入らないものはあるのだなと嬉しくなります。
なんでも簡単に手に入ってはつまらない。
ご当地シリーズはそんな小さな発見があるので楽しいです。
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