AKPC21 仮名手本忠臣蔵 七段目〜上方の演出その2

もうひとつ

描かれている人物

AKPC21
赤枠上段:鷺坂伴内
赤枠中段:おかる
赤枠下段:由良之助

絵の解説

酔い覚ましに二階の出窓に出てきたおかる
上方の演出では、胴抜きの衣装に団扇ではなく懐紙を手にしています。

原画

おかるを下に降ろす由良之助。
おかるが落とした簪を由良之助が自分の頭にさすのは上方の演出。
足台の部分が竹垣で覆われているのも上方の演出。

原画

鷺坂伴内
斧九太夫が乗ったと見せかけた駕籠と一緒に帰る伴内。
万事オッケーと得意満面。

原画

あらすじ

「仮名手本忠臣蔵」七段目

主な登場人物と簡単な説明

・大星由良之助(おおほしゆらのすけ)
塩谷判官の元家老。
敵を油断させるため、祇園の茶屋で放蕩三昧している。

・おかる
勘平のために祇園に身売りして遊女として働いている。

・寺岡平右衛門(へいえもん)
おかるの兄。塩谷家の元足軽。
刃傷事件の際は東国へ使いに行っていた。仇討ちの一味に加わりたい。

・斧九太夫(おのくだゆう)
塩谷家の元家老。師直側に寝返りスパイとなって由良之助を探っている。

・鷺坂伴内(さぎさかばんない)
高師直の家臣。
斧九太夫と協力して由良之助を偵察している。

他、三人侍、大星力弥などがいます。

あらすじ

「一力茶屋」
判官の刃傷事件から半年。
塩谷浪人へ世間の同情と仇討ちの期待が高まっている。
そんな中、大星由良之助は、敵を欺くために祇園で放蕩三昧の日々を送っていた。
おかるの兄・寺岡平右衛門は、仇討ちに加えてもらいたいと訪ねてくるが、酔った由良之助は寝てしまい相手にされない。

師直の家来・鷺坂伴内と内通している斧九太夫は、由良之助の本心を探っている。
由良之助を挑発しても軽くあしらわれるばかりで疑念は晴れず、九太夫は床下に潜んで様子を伺うことにする。

そこへ息子の力弥が人目を忍んで由良之助に顔世御前の密書を届けにくる。

宴席から離れ、縁側で密書を読む由良之助。
たまたま二階で涼んでいたおかるが、床下では斧九太夫が、密書を盗み読みしていた。
そうと知った由良之助は、おかるに身請け話を持ちかける。
おかるが身請け話を喜んでいると、兄の平右衛門がやって来る。
口封じのため殺されると気づいた平右衛門は、どうせ殺されるなら兄の手にかかって死んでくれ、仇討ちに参加するために手柄を立てさせてくれと頼む。
兄から父と勘平の死を聞いたおかるは悲しみのあまり癪を起こし、平右衛門に命を差し出す。
そんな兄妹の気持ちを知った由良之助は、おかるに刀を持たせ九太夫を突き刺し、死んだ勘平のかわりに仇討ちを果たさせる。
そして平右衛門を四十七士に加える。

私のツボ

おかるが落とした簪の音で、人の気配を察知した由良之助。
上方の演出では、おかるの簪を自分の髪に差して、おかるを降ろしたのちに、おかるに差し直す演出があります。
これも絶対ではなく、由良之助の役者によります。

何回か見たことがあって、この何気ない一連の動作が色っぽく、私は大好きな演出です。
由良之助の遊び慣れた風情、たっぷりした色気、廓の艶めいた雰囲気が感じられます。
関東型ですと、簪を拾って懐に納め、おかるを降ろしてから手渡します。
「これはこなたのであろ」と普通に渡す様はそっけなく感じられますが、
簪の処置は物語の筋には関係ないので、ごく妥当な演出です。

おかるを梯子から下ろす際に、卑猥な冗談を由良之助が言うのですが、
関東型ですと、この冗談が浮いてしまうというか、なんというか違和感が残ります。
その点、上方の簪の演出が入ると、この大人の会話がうまくキャッチされて廓の色めいたムードを損ねません。
廓の描き方、遊び人の描き方はやはり上方が上手い。

簪を差した由良之助も色っぽくて好きなので、この演出は残していってほしいです。

鷺坂伴内

「仮名手本忠臣蔵」の絵はたくさん描いていますが、おそらく一番多いのが七段目です。
何枚も描いた七段目の絵の中で、唯一描かれていない人物、それが鷺坂伴内です。

というわけで鷺坂伴内を描きました。

本来は幕切の型とおかるの胴抜きと、簪を差した由良之助でまとめようと思っていたのですが、
おかるの胴抜きの衣装が分かりにくいような気がして、立ち姿勢のおかるを追加で描きました。
似た構図でおかるが二枚できて、どうしようかなと思っていたところ、思い出したのが鷺坂伴内。

斧九太夫と由良之助の刀を改める場所があったり、斧九太夫が帰ったフリをするのを手伝ったりと、それなりに活躍しています。
大好きな鷺坂伴内を描いていないとは我ながら驚きましたが、
三段目と道行の強烈な服装と違って、七段目では控えめの服装だからかもしれません。

この機会を逃すと七段目の伴内を描くことはないかもしれないと思い、
伴内を描きたいがために二枚になりました。
伴内は上方も関東も同じで演出に違いはありません。

松の間刃傷の現場に居合わせ、ずっと塩谷家家臣らの動向を追ってきた伴内。
勘平を追って山崎への道行を阻もうとしたり、由良之助の本心を探るために一力茶屋に来たり、
そこには必ずおかるが居て、結局おかるに会いたいだけでは?
と下心が透けて見えてしまう伴内さん。

一力茶屋でも、あとは九太夫に任せたと帰ってしまいます。
この後、物語には登場しません。
討ち入りの際にも名前が出てこないので、
一力茶屋での騒動を知って高家には戻らず、
いち早く逃走したのではないかと睨んでいます。

事の発端に居合わせ、誰よりも事件の核心に近い位置にいながら、伴内はまったく役に立たないのでした。
足手纏いにさえもならない存在感の無さ。

忠義に生きる人、恋に生きる人、保身に生きる人、正しく在りたいと願う人。
それぞれの生き様が描かれる「仮名手本忠臣蔵」の中で、
師直の威を借る小心者で、目先の小銭には目がなく、腰巾着の伴内さん。
実生活でも似たような人がいたような、いないような、
物語の中で、一番リアリティのある人物です。

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