AKPC14 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)漁師鱶七実は金輪五郎今国

もうひとつ

AKPC13

描かれている人物

漁師鱶七実は金輪五郎今国

絵の解説

官女たちが運んできた酒を欄干の下の菊に注ぐとみるみるしおれてしまった。
毒酒であった。

原画

左:金輪五郎、幕切の見得
右:お三輪に疑着ぎちゃくの相を認め、刀を突き立てようと機をうかがう鱶七。視線の先には取り乱したお三輪。

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・漁師鱶七(ふかしち)実は金輪五郎今国(かなわごろういまくに)
藤原鎌足の使いと称して入鹿の館に入り込んできた漁師。
実は鎌足の家来の金輪五郎。

他、お三輪、求女、橘姫、蘇我入鹿などがいます。

あらすじ

四段目「三笠山御殿」
三笠山の蘇我入鹿の御殿に、藤原鎌足の使いという男がやってくる。
漁師の鱶七である。
鎌どん(by鱶七)から預かったという詫び状を、入鹿の家来が読み上げるが、謝罪と見せかけた嫌味であった。
怒った入鹿は鱶七を人質としてとどめおく。

一方、入鹿の妹の橘姫が烏帽子折求女のもとから戻ってくる。
橘姫の袖につけた糸を辿って求女実は藤原淡海もやってくる。
橘姫の正体を知った淡海は、夫婦になりたければ入鹿の宝剣を盗むよう要求し、姫は承諾する。

求女を追ってお三輪が御殿にやってくる。
お三輪は官女たちに取り囲まれ、いじめ抜かれる。
挙句、求女と橘姫の祝言を知らされる。

恥をかかされた怒りと、嫉妬から理性を失ったお三輪は憎悪の表情を浮かべ、御殿の奥へ入ろうとする。
そのお三輪に鱶七が刀を突き立てる。
鱶七は実は金輪五郎という鎌足の家臣で、疑着の相の女の生き血を探していたのだった。
お三輪の怒りの形相こそ、疑着の相だった。

入鹿討伐という求女の役に立てると聞かされたお三輪は、それを喜びつつも、もう一度求女に会いたい、恋しいと苧環おだまきを抱きながらこと切れるのであった。

入鹿の家来が金輪五郎に襲いかかるが、次々となぎ倒して見得。
幕。

私のツボ

野趣あふれる鱶七三選

講談社から出ている「歌舞伎歳時記」という古い文庫本があり、吉田千秋氏の舞台写真に戸板康二氏が文章を寄せたものですが、とても良い本で折にふれて眺めています。
そこに「菊」というタイトルで、絵に描いた鱶七の写真が掲載されていました。

この見得について戸板氏が、
「しおれた菊を、鱶七が欄干に銚子をついて見おろす見得が、この芝居の中では、景容としては最も優れている。」
と書いています。

この場面、いつも萎れる菊に目がいってしまい、鱶七の見得をじっくり見ていないことに気がつきました。
というわけで改めて描きました。

個人的には畳を突き破って出てくる槍を出て止める場面の見得が一番好きです。

原画

次に、お三輪に疑著の相を認め、刀を突き立てるタイミングを見計らう鱶七。
この時の緊張感たるや、ビリビリと凄まじいのですが、いかんせん頭に巻いた鉢巻きに目がいってしまいます。
なぜこんな三角形なのだろう。
「喜撰」の姉さんかぶりにも似ています。
すし屋被りをしたが、髪の毛が多くて三角になってしまっているという推論に落ち着いています。
この場面では金輪五郎のかつらをつけていますが、まだ物語では鱶七なので、手拭いで鬘を隠しているという演出上の事情もあるのでしょう。
鱶七と金輪五郎が共存している状態。

最後は金輪五郎の四天よてん姿。
俳優さんによって衣装のデザインが異なる場合もあります。

「三笠山御殿」といえばお三輪ちゃんですが、あえて鱶七三昧としました。

「歌舞伎歳時記 秋冬」 講談社文庫 1980年

水引の化け物

野趣あふれる鱶七に興味津々の官女たち総勢八名。
御殿仕えの愚痴を語り、「連れて退いてたもいのぅ」と迫る。
鱶七に拒まれ、ぷりぷり怒って悪態をつきながら立ち去る。

原画

立役の役者がやる、ガタイの良い官女たちーー通称”いじめの官女”。
お三輪をいじめる場面でも出てきますが、その執拗さは鱶七に袖にされた悔しさのせいかもしれません。
気位が高く、攻撃的な、でも根はきっと乙女な水引モンスターたちです。
紅白のお化けということでしょうかね。

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