AKPC09 一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)

もうひとつ

AKPC09

描かれている人物

左上:(左から)若船頭、船頭、船大工
左下:(左から)お蔦、お君
右:茂兵衛

絵の解説

飴売りをして暮らすお蔦と娘のお君、渡世人になった茂兵衛

原画

利根川べりの船頭たち

原画

背景パーツ
アルシュの残り紙。さすが墨の滲みが綺麗。

原画

おまけ
お松・お吉・おせき

原画

あらすじ

主な登場人物と簡単な説明

・駒形茂兵衛(こまがたもへえ)
取的(とりてき:最下位の力士の呼称)だが、巡業先で親方に見限られる。
亡き母の墓前で土俵入の姿を見せるのが夢。

・お蔦(おつた)
旅籠茶屋・我孫子屋の酌婦。
越中(富山)八尾の出身。
船印彫(だしぼり)師の辰三郎との間にもうけた娘が一人いる。

他、辰五郎、波一里儀十、堀下げの根吉などがいます。

あらすじ

序幕 取手の宿、利根の渡し
水戸街道の宿場町、取手。
街道筋で船戸の弥八が暴れている。
そこへ取的(とりてき)の駒形茂兵衛が空腹でフラフラしながら通りかかり、
弥八に頭突きをくらわして追い払う。
宿の二階からその様子を見ていた酌婦のお蔦が茂兵衛に声をかける。

聞けば、巡業先で親方から見限られて破門されたが、
亡き母の墓前で土俵入りの姿を見せたいという夢が諦めきれず、
もう一度入門を許してもらうため江戸へ向かっているという。

故郷の母を思い出したお蔦は、ふと小原節(おわらぶし)を口ずさむ。
そして財布と櫛かんざしと金を茂兵衛に与え、立派な横綱になるよう励ます。

茂兵衛が利根川で船を待っていると、子守の少女と出会う。
子守の背負っている赤ん坊は、先ほどのお蔦が産んだ子だと知る。
茂兵衛の後をつけていた弥八と仲間たちが襲ってくるが、
お蔦のおかげで腹を満たした茂兵衛は難なく川へ放り投げてしまうのだった。

大詰 布施の川、お蔦の家
十年後
渡世人となった茂兵衛はお蔦を訪ねて布施の川べりにやって来た。
船の手入れをしている地元の船頭たちに消息を尋ねたが、
我孫子屋は既になく、行方は誰も知らなかった。
そこで茂兵衛は土地のやくざ者からイカサマ博打の男と間違われる。
その男とは、お蔦の夫・辰三郎だった。

お蔦は娘のお君と二人、飴売りをして暮らしていた。
そこへ何年も行方しれずだった夫の辰三郎が戻る。
しかし、夫は土地の親分・波一里儀十の賭場でイカサマをしたため追われていた。

夜道を歩く茂兵衛の耳に、お君が唄う小原節が聞こえる。
その歌声を頼りに、お蔦の家へ辿り着いた茂兵衛は
十年前の恩返しと金を渡すがお蔦は覚えていない。

やがてお蔦の家を儀十の手下たちが取り囲む。
儀十らを相撲の手で叩きのめす茂兵衛を見て、
お蔦はようやく十年前のことを思い出す。

茂兵衛は親子三人を逃し、その後ろ姿を見ながら
桜の下で名台詞「…しがねえ姿の土俵入りでござんす」。

私のツボ

十年後の現実

「一本刀土俵入」は既にかぶきねこづくしで商品化しており、
舞台前半、まだ茂兵衛が若かった頃のみを描いています。

KNPC72 「一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)」

後半はまた次の機会に、
と思いながらなかなかタイミングが合わず月日は流れ、
そして今回ついにと思いきや諸事情により商品化できませんでした。

が、既に頭の中で構図が完成しており、何より描きたかったので仕上げました。

まず描きたかったのは、幕切の茂兵衛の姿。
前半とは見違えるほどの貫禄。
すっかり立派になったねぇ、と親戚のような、そんな気持ちになります。

幕切のポーズは人によって少々異なるのですが、
腕組みをして見送る茂兵衛、ハラハラと散る桜の花びら。
この場面が好きで、ここを描きたかった。

ふと二人の人生が交差した秋の日。
横綱に憧れる青年と、人生に疲れた酌婦。
あれから十年。
再び二人の人生が交差し、そしてまた別れる春の夜。

お蔦と辰三郎とお君の三人が寄り添う場面にしようかなと思いましたが、
交差するのはお蔦と茂兵衛の人生なので、二人のみにしました。

とはいえその二人だけだと絵が暗くなるので、船頭たちのカットも加えました。

前半にも川べりの場面が出て来ます。
十年の時を経て、人も街も変わる。
変わらないのは利根川の流れだけ。

ベタベタだなぁと思いますが、そのベタベタなのが良いのです。
たまにふるさとの味が恋しくなるような、
テレビをつけたらたまたま放送していた「寅さん」を見て、
あ、これ前に見たことあるなと思いながらもついつい見てしまって
そして泣いてしまうようなものです。

お蔦の同僚ーお松・お吉・おせき

前半の我孫子屋の場面に出てくる少々ガラの悪い酌婦トリオ。
常に酔っ払っているのがお松、お松ほどスレてはいないのがお吉、若手のおせき。
お松とお吉はレギュラーで、おせきは出ないこともあります。

この三人が面白くて、地方の街道筋の場末感というか、裏ぶれた埃っぽい空気をうまく醸し出しています。
猫なので分かりにくいのですが、首まで白粉をたっぷり塗って顔はそのままという化粧をしています。
派手な半纏を着ているのもポイントです。
白首(しらくび、ごけ)といわれる安女郎のことで、首を白く塗るのは当時の遊女の典型的な化粧です。
流行りの化粧は時代によってうつろうものですが、この首と顔のコントラストの強さが一層の野暮ったさを醸し出しています。

お松、お吉、おせき

我孫子屋が店を閉めた後、この三人はどこでどうしているのやら。

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