描かれている人物
上:(左から)雛鳥、腰元小菊、久我之助
赤枠上:(左から)腰元小菊、腰元桔梗
赤枠下:(左から)雛鳥、久我之助
赤丸枠:宮越玄蕃
絵の解説
腰元小菊の計らいで、吹き矢筒で久我之助への思いを伝える雛鳥。
進展が早い若い二人。雛鳥の左手は久我之助の膝の上に。
仲睦まじい雛鳥と久我之助を見て不愉快な玄蕃
かしまし娘二人組・腰元の小菊と桔梗
ほっぺが紅いのが小菊。
あらすじ
主な登場人物と簡単な説明
・久我之助清舟(こがのすけきよふね)
大判事清澄の息子。采女の局に仕えている。
父は右大臣・阿部中納言行主の側近。
・雛鳥(ひなどり)
定高の娘。16歳くらいの美少女。
・宮越玄蕃(みやごしげんば)
蘇我蝦夷子の家臣。雛鳥を妻にしたい。
・小菊&桔梗(こぎく、ききょう)
雛鳥の腰元。敏腕腰元。
・采女の局(うねめのつぼね)
藤原鎌足の娘。天智帝の寵愛を受けていることから蝦夷子に疎んじられている。
あらすじ
これまでの経緯(大序 大内の段)
天智天皇の御代。
病で盲目となった帝に代わって左大臣・蘇我蝦夷子が執務を取り行い、権勢を振るっていた。
大臣・藤原鎌足は蝦夷子に謀反の濡れ衣を着せられ失脚。
真相を探るべく鎌足は宮中を去り蟄居する。
※文楽でごく稀に上演される段。
歌舞伎では上演されたことはありません。
主要人物が登場し、全体の構図を示す場面。
小松原の場
秋。
奈良春日野の小松原。
狩をしていた久我之助が床几に腰掛けて休憩していると、
太宰家の息女・雛鳥の一行が通りかかり、二人はひと目で恋に落ちる。
腰元たちの計らいで二人は恋仲になる。
蝦夷子の家来・宮越玄蕃がやってきて、久我之助と雛鳥に声をかける。
相手の名前を聞き、二人は家が敵同士であることに気づく。
玄蕃は雛鳥を口説こうとするが、腰元が機転を利かせ、雛鳥一行は逃げ去る。
そこへ帝の寵愛を受けている采女の局が行方不明になったと知らせが入る。
玄蕃は蝦夷子に注進するため立ち去る。
采女の局の付人をしていた久我之助が今後を思案していると、
本人が現れ、匿って欲しいと頼む。
事情を汲んだ久我之助は采女の局に蓑笠を着せてその場を立ち去る。
私のツボ
唯一平和な場面
吹き矢筒で想いを伝えるというシチュエーションが面白くて描きたかった場面。
この後、隣に座る久我之助の膝の上にそっと手を乗せる雛鳥。
あんなに恥じらっていたのに、急に積極的になるのは丸本ものの赤姫様のお約束。
赤っつらの玄蕃もやや三枚目寄りで、腰元が大活躍するのもお約束です。
二人が出会った秋から、季節が進んで春。
「吉野川の場」で二人に待ち受ける悲劇。
「吉野川」は見応えがありますが、後味が悪いので苦手な演目でもありました。
”生きていたらなんとかなるのに、なぜ我が子を手にかける?”と
現代の常識や倫理観を当てはめるのは野暮なのは承知の上で、
それでもやはり現代人の私には狂気の沙汰としか思えず、
その狂気に恐怖を覚えてしまい、どっぷり演目の世界に浸れない。
”片外しの大役”とか”そう頻繁に上演しない”とか”舞台美術が豪華”とか、
付加価値を観に行く演目でした。
ですが、初めて通しで観て、あっさりと常識は引っ込んでしまったのでした。
定高も雛鳥も、大判事も久我之助も狂っていることに変わりはありませんが、
それを上回る狂気が蘇我入鹿で、入鹿に目を付けられては命の保証は無く、
己の尊厳を守るための究極の選択だったと理解しました
そもそも「妹背山婦女庭訓」そのものが、常識が通用しない不条理なオカルトの世界だったと。
筋書きなどで物語の概要は知ってはいたのですが、やはり舞台を見るのとでは説得力が違います。
すんなり、目の前に拡がるその世界を受け入れられてしまう。
そんな狂気に満ちた「妹背山婦女庭訓」の中で、唯一、楽しく平和で、ユーモアもある場面。
雛鳥と久我之助にも「小松原」のような楽しい恋人の時間があったんだなと
「吉野川」のやりきれなさをほんの少し和らげてくれます。
舞台後半、采女の局が登場し、これはこれで重要なのですが、
雛鳥と久我之助の出会いに焦点を絞りたかったので省略しました。
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